岸田文雄首相の米議会演説の中で、米側がいちばん注目したひと言は自らを「リアリストだ」と強調した部分だろう。今後日本の政局がどうなろうと、防衛強化路線が変わらないことを示唆するからだ。国際政治においてリアリストという英語は、日本語でいう「現実主義者」のニュアンスを超えた響きを持つ。ざっくりいえば、自国の安全のため、国家間のパワーバランスを保つことを最優先し、必要な対策を重ねていく路線を意味する。
北朝鮮の核・ミサイル開発をめぐって我が国周辺の危機レベルが上がっていると見る雰囲気があります。現時点で米海軍の展開にそこまでの緊急性は見られず、今すぐに戦争が起きるという状況ではありません。北朝鮮が対米核抑止態勢を追及する限り、日米韓に対する軍事的脅威が増大し続けるのは間違いありませんが、それがすなわち"危機"を押し上げるわけでもないので、ここに来て突然戦争の兆候が高まったかのような見方にはやや違和感があります。 しかしながら、「戦争が起きるなんてありえない」とタカを括るのも危ない考えです。確かに、世界大戦規模のものを想像するなら、めったに発生するものではないでしょう。しかし、19世紀、20世紀と比べてみても、2001年以降の約10年で戦争が減っているわけではないんですよね。大規模なものだけでもアフガニスタン、イラク、ダルフール、東ティモール、イスラエルとパレスチナ・レバノン、グルジア、リ
初のアジア歴訪を終えたアメリカのティラーソン国務長官。しかし、最重要課題である「北朝鮮問題」に対する中国とのあまりの「認識の違い」に愕然としたようです。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、「中国にとって北朝鮮は、南北統一の歯止めとなる存在で、しかも中国に向けて攻撃してくる可能性もないという、非常に都合の良い存在である」との見方を示しています。 中国は、北朝鮮問題を解決する気が全然ないという現実 アメリカのティラーソン国務長官が、日本、韓国、中国を訪問しました。最重要課題は、「北朝鮮問題」です。 やる気満々だったティラーソンさんですが、北京へ行き、「中国には、北朝鮮問題を解決する意欲がゼロ」であることを、思い知ることになりました。 ティラーソン「軍事行動」に言及 3月17日、ティラーソンさんはソウルにいました。そして、「忍耐の時代は終わった」とし、「軍事行動の可能
昨年5月、中国はベトナムの排他的経済水域(EEZ)内へ石油掘削装置「HY981」を派遣しました。掘削地点はベトナム沿岸から220kmの西沙諸島付近で、ベトナム国内では激しい反対運動が起き、中国人2人が死亡、100人がけが、3,000人が国外脱出という騒動にまで発展しました。 当時、中国は海警局など法執行機関だけでなく海軍艦艇も10隻近く派遣し、計80隻余りの船を当該海域に展開させていました。中国の海上法執行機関船艇によるベトナム沿岸警備隊船艇への体当たりによって、ベトナム側にけが人も出ています。こうした激しい衝突にもかかわらず、中国は当該海域の初期探査活動を最後まで完了させました。 そして再び、今月25日に中国は石油リグをベトナムのトンキン湾沖へ派遣し、掘削作業を開始すると発表しました。 HN0029(海洋石油981船钻井作业)(2015/6/25 中国海事局) 琼航警0029 南海
平和安全法制特別委員会の公聴会で意見陳述に臨む法政大学法学部教授の山口二郎氏=13日午前、国会・衆院第1委員室(斎藤良雄撮影) 13日の衆院平和安全法制特別委員会で、山口二郎法政大教授(政治学)は「1960年の安保闘争で市民が岸政権を退陣に追い込み、憲法9条の改正を阻止したことで、日本は戦争に巻き込まれずに済んだ」と主張した。山口氏の発言の詳細は以下の通り。 私はまず、政治学の観点から戦後日本の安全保障政策の転換について、まずおさらいしておきたいと思う。今年は戦後70年の年であり、日本の来し方、行く末を考える重要な機会だ。従って、安全保障法制を戦後日本の歩みの中に位置付け、意味を考えてみたいと思う。戦後日本の国のかたちが大きく変化した契機は、1960年のいわゆる安保騒動だった。当時の岸信介首相は、憲法、特に9条を改正して国軍を持つことを宿願としていた。そのための第一歩として、安保条約の改定
安全保障関連法案の審議が続いていますが、今議論が集中しているのは集団的自衛権の部分ですね。閣議決定された自衛隊の武力行使を認める新三要件では、個別的自衛権・集団的自衛権かに関わらず、これを満たせば武力公使を可能としていますが、まずは全文を見てみましょう。 我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があることこれを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと出典:内閣官房サイトより この新三要件では、特に1が集団的自衛権に関連しますね。この新三要件を満たす状況の具体例として、政府は以下の様なホルムズ海峡での掃海活動を挙げています。 二つ目は、ホルムズ海峡での機雷敷設です。 海洋国
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安全保障関連法案(安保法案)をめぐる国会審議が始まりました。焦点のひとつが日米同盟ですね。 日本はこれまで日英同盟、日独伊三国同盟、日米同盟と3つの同盟に入ってきました。いずれの同盟においても、同盟国が敵の正面を受け持ち、我が国が敵の背後を脅かすことで同盟に寄与する形をとっていました。日露戦争、日米戦争はありましたが、それ以外は直接的に勢力均衡を維持する努力は求められず、とりわけ日米同盟における日本の負担は軽いものだったと言えます。 近年、中国の台頭によって、我が国は久しぶりに敵の正面に立たされています。地理的にきわめて近い中国の軍事力増強が日本国内での議論を惹起するのは当然で、S. ウォルトの「脅威均衡論」によると、脅威の度合いは「パワー」・「近さ」・「攻撃力」・「攻撃的意図」の4つの要因によって上下します。「近い」ということは、人の移動や軍事行動といった物理的な影響も大きいですが、なに
ウィーンで開会中の「核兵器の人道的影響に関する国際会議」で、日本の佐野利男軍縮大使が8日、核兵器の爆発時には「対応できないほど悲惨な結果を招く」との見方について、「悲観的過ぎる。少し前向きに見てほしい」と発言した。反核団体などからは「核爆発の影響が壊滅的なことは日本が一番よく知っているはず」などと疑問の声が上がった。 同会議は2013年3月にノルウェーのオスロ、今年2月にメキシコと過去に2回開催。いずれも、核爆発が起これば国際社会が対応できないほどの悲惨な結果を招く、との見解が議長総括で確認された。 佐野大使は8日の会議で、壇上のパネリストが同様の見解を述べたことを受けて、発言を求めた。「人道支援を提供するための能力を築き上げないといけない」と述べ、今回の議長総括では「もう少し前向きな面から見てほしい」と求めた。「核兵器の攻撃で被害者が出た場合に人道的、科学的、医学的、技術的に助けるための
ジョン・J・ミアシャイマーの『大国政治の悲劇 改訂版』が出版されました。2001年に発表された原著は大変話題になり、2007年に邦訳版『大国政治の悲劇 米中は必ず衝突する!』が出た時もその刺激的な内容で議論を呼びました。 オフェンシブ・リアリズム(攻撃的現実主義)の観点から国際政治を分析した内容は、善悪などの道徳観を排除した冷徹なもので、国際政治の現実をありありと描き出したものです。分厚い本ではありますが、注釈なども含めてリアリズムを学ぶ上で教科書的な良著です。その一部は、当ブログでも紹介させていただきました。 【過去記事】 オフェンシブ・リアリズムから見る戦略論 今回の2014年改訂版は、中国の台頭を受けて加筆されたものです。実際、中国は2009~2010年に大規模な建艦期を迎え、その後の軍事力、とりわけ海軍力の発展は目覚ましいものがあります。この現状と未来をミアシャイマーはどう見ている
日本に関連する国際報道を見ていて、たまに日本でさして話題にならないニュースに出くわす。海外の関心と日本の関心にズレがあっても不思議ではないが、多少気になるときは、ブログに記すようにしている。今回のそれは、先月末から今月にかけて実施された中国海軍の演習である。 国内でニュースにならなかったわけではなかった。たとえば、2月7日共同「中国海軍が実弾訓練、西太平洋で」(参照)はこう伝えていた。 中国国営、新華社通信によると、中国海軍南海艦隊の艦艇が西太平洋の海域で7日、実弾射撃訓練を実施した。遠洋での武器運用能力を確認することなどが目的という。 同通信は「中国海軍が公海上に設けられた臨時の軍事訓練海域で訓練することは国際法に合致している」と主張し、海軍艦艇は今後も西太平洋で訓練を続けると強調した。 訓練には揚陸艦やミサイル駆逐艦など3隻が参加した。3隻は1月26日、南シナ海の南端にある「曽母暗礁」
▼政府が南スーダンのPKOに参加している自衛隊を撤退させる検討に入ったと朝日新聞が報じたが、菅官房長官は撤退を検討している事実はないと否定している。 【朝日】 2013/12/25朝刊1面「南スーダン撤退検討 PKO 自衛隊、治安悪化で」、4面「PKO5原則尊重 南スーダン撤退検討」、2013/12/26朝刊3面「南スーダン撤退 政権検討 安保強化策の停滞懸念」 《注意報1》2013/12/27 18:15 《追記あり》2013/12/27 18:35(外務大臣会見を追記) 《注意報1》 2013/12/27 18:15 朝日新聞は、12月25日付朝刊1面で、政府が南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に参加している自衛隊を撤退させる検討に入ったと報じました。しかし、菅義偉官房長官は25日の記者会見で「政府としては南スーダンのPKOからの撤収を検討しているという事実はありません」と否定。同
ペテンで「領空拡張」狙う中国 中国が11月23日、突然に宣言した東シナ海の“防空識別圏”。この問題に詳しい、安全保障専門家のB氏に聞いた。 鈴置:Bさんが予想されていたように11月28日、中国が「日本だって44年も前から防空識別圏(ADIZ)を設定している。我が国に対し文句を言う権利はない」と言い出しました。 B:いかにも中国らしい、へ理屈です。中国の“防空識別圏”とは日本や西側のそれとは「似て非なるもの」なのです。なのに敢えて同じ名称を使うことにより、日本や関係国を誤魔化そう、揺さぶろうとしているのです。 専門家ならすぐに分かることですが、中国の主張は「識別圏の設定」ではなく「領空の拡張」です。中国の“防空識別圏”と、日本などのそれとは全く別物であることをまず理解しておく必要があります。 日本や西側の防空識別圏とは、主権の及ぶ領空に接近してくる国籍不明機を、敵か味方か判別するために、領空
英国のジェームズ1世の国書が徳川家康に捧呈され、日本と英国の間に正式に国交が結ばれてから今年で400年目を迎えます。これを記念して、英国海軍の最新鋭艦である45型ミサイル駆逐艦”デアリング”が12月1日に東京港に来航し、晴海埠頭にて記念行事が行われました。 45型駆逐艦”デアリング”2008年の”ケント”来航以来、英国海軍の艦艇が来日するのは5年ぶりとなります。今回のデアリング入港前には、日本側のホストシップ(相手を出迎えるホスト役の軍艦)で、自衛隊の最新鋭艦である、あきづき型護衛艦”てるづき”と親善訓練を行い、てるづきが先導する形で一緒に入港しました。 あきづき型護衛艦2番艦”てるづき”最新鋭駆逐艦であるデアリングは、統合電気推進と呼ばれる先進的な推進機関を持っています。これはガスタービンで発電し、その電力でモーターを駆動させて航行する推進機関で、推進の為の電力と、艦内で使われる機器の電
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