阿部 なつ江研究プラットフォーム運用開発部門 マントル掘削プロモーション室 主任研究員 地球の深部を探求し続け、「マントル岩石学者」と自称する研究者 。海洋地球研究船「みらい」、地球深部探査船「ちきゅう」を用いた世界的な研究航海にも赴き、数々の研究成果を発表している。 マントルは、キレイな緑色の石でできている。 地球の断面図では、マントルはよく赤色に塗られています。そのせいか、マントルと聞くと、ドロドロに溶けたマグマのような赤色をイメージする人が多いようです。 しかし、実際は違うということが解ってきました。地球の体積の実に約83%を占めるマントルは、かんらん岩という重い岩石でできていると考えられています。かんらん岩を構成する主な鉱物は、「かんらん石」と呼ばれ、透き通った宝石でもある緑色の石。つまり、マントルは赤色ではなくキレイな緑色なのです。 マントルは高温・高圧の状態にあり、溶けてはい
文:立山 晃/フォトンクリエイト 石油は、太古の生物が合成した有機物が、高温・高圧の地下で長い時間をかけて化学的に変化してつくられたと考えられています。 ところが2021年7月、JAMSTEC地球環境部門の原田尚美部門長たちは、北極海で採取した植物プランクトンが、石油と同じ成分をつくり出していることを公表しました。 その特殊能力を利用して高品質のバイオ燃料やバイオプラスチックをつくることができれば、地球温暖化や資源問題の解決に貢献できます。 原田部門長に、今回の発見について聞きました。 どんな生物が石油と同じ成分をつくるの? ──石油と同じ成分をつくっていたのは、どのような生物ですか。 私たちが2013年、北極海のチュクチ海で採取したディクラテリア・ルトゥンダ(Dicrateria rotunda)という植物プランクトンです。ハプト藻の仲間で、動き回るためのべん毛を持っています。 ディクラ
2021年 7月 19日 国立研究開発法人海洋研究開発機構 国立大学法人豊橋技術科学大学 大学共同利用機関法人自然科学研究機構生理学研究所 1. 発表のポイント ◆植物プランクトン:ハプト藻の一種であるDicrateria rotunda(D. rotunda)が石油と同等の炭化水素(炭素数10から38までの飽和炭化水素)を合成する能力をもつことを発見した。これまでいずれの生物からもこの能力をもつものは報告されていない。 ◆北極海の研究航海で得られた株ARC1を始めとする計11種のDicrateria属を調べたところ、全てが一連の飽和炭化水素を合成する能力を有しており、この生物種に共通する能力であることが明らかとなった。 ◆D. rotunda ARC1の飽和炭化水素は暗所および窒素欠乏条件で増加した。今後、これらの飽和炭化水素の生理機能や合成経路の解明することにより、バイオ燃料の開発につ
1. 発表のポイント ◆セキトリイワシ科として最大種となる新種の発見 ◆非常に栄養段階が高く、駿河湾深部のトップ・プレデター ◆生態系への影響力があり、脆弱で環境変動の影響を受けやすいトップ・プレデターの深海域における多様性と役割の解明が急務 2. 概要 国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 松永 是、以下「JAMSTEC」という。)地球環境部門 海洋生物環境影響研究センター 深海生物多様性研究グループの藤原義弘 上席研究員及び河戸勝 准研究副主任らは、神奈川県立海洋科学高等学校所属の実習船「湘南丸」を用いた深海調査を駿河湾で実施し(図1)、セキトリイワシ科の新種となるヨコヅナイワシNarcetes shonanmaruae(図2)を発見しました。 本種はこれまでに報告されているセキトリイワシ科魚類の中で最大種であり、全長約140 cm、体重25 kgに達します。駿河湾の水深2,171
2019年 9月 10日 国立研究開発法人海洋研究開発機構 国立大学法人東京大学大学院理学系研究科 国立大学法人東京大学大気海洋研究所 1. 発表のポイント ◆深海熱水活動域固有種スケーリーフットの鱗に含まれる硫化鉄が生じる過程を最新鋭の顕微分析により明らかにした。 ◆スケーリーフットが硫化鉄を形成するメカニズムは、スケーリーフット本体が鱗に放出した硫黄と、海水から浸透してきた鉄イオンとが徐々に反応することで生じるという、他の生物による鉱化作用とは異なるものであることが明らかとなった。 ◆このメカニズムは、スケーリーフットに限らず化学合成共生を行う生物が普遍的に硫黄などの代謝物の排出機構を持つ必要性を示唆しており、深海環境における生存戦略の新しい視点をもたらした。 2. 概要 国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 松永 是、以下「JAMSTEC」という。)海洋機能利用部門 生命理工学セ
2019年 2月 6日 国立研究開発法人海洋研究開発機構 国立大学法人高知大学 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 公益財団法人高輝度光科学研究センター 国立大学法人愛媛大学 国立大学法人広島大学 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 国立大学法人東京大学 1. 発表のポイント ◆外洋の酸素に富む海底堆積物中に直径数ミクロンの鉄マンガン酸化物微粒子「微小マンガン粒」が存在することを発見 ◆微小マンガン粒(外洋海底下全体で1028~1029個存在)は全体として数兆トンのマンガン、数十億トンのレアアースを含む ◆特定の微細粒子を分離する技術確立に立脚した成果であり、微粒子解析の基礎技術として幅広い応用展開が期待される 2. 発表概要 国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)の諸野祐樹主任研究員、稲垣史生上席研究員、国立大学法人高
南海トラフ巨大地震発生帯の海溝軸近傍で誘発・繰り返す「ゆっくり滑り」を観測 - 地球深部探査船「ちきゅう」によるIODP 第365次研究航海の成果より - 1.概要 国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という)地震津波海域観測研究開発センターの荒木英一郎主任技術研究員、ペンシルバニア州立大学のDemian M. Saffer教授、東京大学大学院理学系研究科の井出哲教授らは、南海トラフ巨大地震の発生が想定されている震源域の海溝軸近傍において、何度も繰り返し「ゆっくり滑り(※1)」が発生していることを明らかにしました。 これは、1944年の東南海地震の震源域(熊野灘沖)およびその沖合の2か所の掘削孔内での間隙水圧等の連続観測データおよび地震・津波観測監視システム(※2、以下「DONET」という。)から得られた海底地震計データを2011年~2016年の6年間
1.概要 国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という)海洋掘削科学研究開発センターの田村芳彦上席研究員らは、地球になぜ大陸が出現したのか、という課題に対して、地球物理学的データと岩石学的・地球化学的データを総合的に用いることによって、従来とは全く異なる新しい仮説を提唱しました。 代表的な海洋島弧である伊豆小笠原弧とアリューシャン弧において、地球物理学データ及び水深データを用いた地殻構造の推定を行い、さらに、この地殻構造と海底火山から噴出するマグマを比較した結果、地殻の厚さと噴出するマグマのタイプに相関があることが分かりました。この結果は、地殻の薄い場所で安山岩質の、地殻の厚い場所で玄武岩質のマグマが噴出していることを示しており、これまでの常識を覆すものです。これは、地殻の薄い海洋島弧の海底火山において安山岩質マグマがつくられること、つまり「海において大
2億5000万年後までに日本列島を含んだ超大陸アメイジアが 北半球に形成されることを数値シミュレーションにより予測 ~大陸移動の原動力の理解へ一歩前進~ 1.概要 国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)地球深部ダイナミクス研究分野の吉田晶樹主任研究員は、大型計算機システムを用いた地球のマントル対流の三次元高解像度数値シミュレーションによって、現在から約2億5000万年後までには、北半球を中心とした新しい超大陸(アメイジア)が形成される可能性があることを明らかにしました。 1990年代初頭から、現在のプレート運動の様子や地質学的な情報から、将来、北半球に新しい超大陸「アメイジア」(※1)が誕生することが提唱されてきましたが、今回、マントル対流の高解像度の数値シミュレーションによってアメイジアの誕生を確認し、その形成メカニズムを解明しました。 本研
2016年 4月 21日 2016年 6月 1日一部修正 (本文修正) 国立研究開発法人海洋研究開発機構 国立大学法人京都大学 1.概要 国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」)海洋生命理工学研究開発センターは、国立大学法人京都大学と共同で、有人潜水調査船「しんかい6500」、無人探査機「ハイパードルフィン」等により深海から採取した堆積物から、D-アミノ酸を好んで食べて増殖する微生物を発見しました。 タンパク質を構成するアミノ酸は、ちょうど鏡に映るように向かい合った左右対称の立体構造を持ったL-アミノ酸とD-アミノ酸の2つに区別されます。これまで生物はL-アミノ酸のみを選択的に利用すると考えられてきましたが、近年の分析技術の進歩によって、ヒトから微生物に至るまで様々な生物がD-アミノ酸を利用していることが明らかになってきました。特に哺乳類で、D-アミノ酸
1.概要 国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」)アプリケーションラボのパスカル・オエットリ(Pascal Oettli)特任研究員、森岡優志研究員、山形俊男上席研究員は、西アフリカのダカール沿岸に発生する地域的な大気海洋結合現象を世界で初めて発見し、「ダカール・ニーニョ/ニーニャ」と命名しました。 西アフリカのダカール沿岸では、一年を通して北東から吹く貿易風と地球の自転の影響を受け、海水が沖合に運ばれ、それを補うように海洋内部から冷たい海水が湧昇しています(沿岸湧昇)。この付近は海洋内部から栄養塩が運ばれ、豊かな漁場として知られる一方、時にこの海面水温が大きく変動し、海洋生態系に大きな影響を及ぼす年があることが報告されています。しかしながら、その変動の原因はこれまで調べられてきませんでした。 研究グループでは、1982年から2011年までの過去30年間
太平洋のエルニーニョ現象の影響で、台風11号は、通常より東に寄った日付変更線に近い海域で発生しました。フィリピン周辺海域の海面水温は低く、太平洋高気圧の西への張り出しは弱くなっています。台風11号は、この太平洋高気圧の西縁を北上し、本州中央部を直撃、各地に洪水を起こすなど、大きな爪痕を残しました。台風12号も同じようなコースを取りそうです。今回のエルニーニョ現象は、かなり強いものになることが予想され、その影響は世界各地で顕著になってくるでしょう。このような太平洋の状況だけでなく、私たちはインド洋にも着目してきました。私たちのチームの予測通りに、インド洋熱帯域でダイポールモード現象が発生し始めたようです。このダイポールモード現象も日本を含む世界各地に異常気象をもたらします。今回のコラムでは、このインド洋のダイポールモード現象の発生状況と今後の見通しについて解説します。 1. 現在の状況 7月
「ちきゅう」により世界最深の海底下微生物群集と生命圏の限界を発見 ―石炭・天然ガスの形成プロセスを支える「海底下の森」が存在― 1.概要 国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)高知コア研究所地球深部生命研究グループ・海底資源研究開発センター地球生命工学研究グループ(兼任)の稲垣史生上席研究員らは、国立研究開発法人産業技術総合研究所、国立大学法人高知大学、国立大学法人千葉大学、ブレーメン大学(ドイツ)、スイス連邦工科大学(スイス)、カリフォルニア工科大学(米国)、マサチューセッツ工科大学(米国)、クレイグベンター研究所(米国)等が参加する国際研究チームと共同で、地球深部探査船「ちきゅう」による統合国際深海掘削計画(IODP, ※1)第337次研究航海「下北八戸沖石炭層生命圏掘削」により青森県八戸市沖の約80kmの地点(水深1,180m)から採取さ
1.概要 海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦)海洋生命理工学研究開発センターの出口茂研究開発センター長らは、深海熱水噴出孔に見られる高温・高圧の水環境で起こる物理・化学現象を直接観察できる高解像度光学顕微鏡を用いて、250気圧の高圧下でエビやカニなどの甲殻類に含まれる多糖の一種「キチン」が400℃近い高温・高圧水中で分解される様子を観察することに成功しました。さらに、キチンを主成分とした細胞壁をもつエノキの細胞の構造が、200℃以上で煮崩れ始め、最終的に400℃近辺で完全に分解される様子を観察することにも成功しました。 キチンはセルロースに次いで世界で豊富に存在するバイオマス(※1)とされ、その有効活用が期待されています。一方、同じく高温・高圧の環境である深海の熱水噴出域にもハオリムシやゴエモンコシオリエビなどキチン質からなる深海生物が生息していることが知られています。JAMSTEC海洋生
「しんかい6500」完成25周年 連続テレビドラマ『海に降る』にJAMSTECが全面協力 深海の科学研究を題材に海洋ロマンを描いた朱野帰子氏の同名小説を連続ドラマ化するもので、JAMSTECの「しんかい6500」による研究活動を舞台に、日本人初となる女性パイロットが、神秘的な深海の世界に挑む、海洋ロマン溢れるヒューマンドラマです。 番組制作にあたり、深海の世界や最先端の海洋科学技術を圧倒的なリアリティで描くため、JAMSTECが取材・撮影等に全面協力しています。2015年4月18日に実施した深海潜水調査船支援母船「よこすか」研究航海での「しんかい6500」完成25周年の記念潜航では、沖縄本島近海の水深約1,500mの深海底への潜航調査に撮影班が同行し、「しんかい6500」耐圧殻内を含む調査の様子を4K画質で撮影しました。今後もJAMSTEC横須賀本部の潜水調査船整備場をはじめ、実際の研究開
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