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ブックマーク / honz.jp (262)

  • 『中世ヨーロッパ ファクトとフィクション』「暗黒時代」という神話はなぜ生き残ってきたのか - HONZ

    「中世ヨーロッパ」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。「疫病と飢饉」、「魔女狩り」、「異端審問」……。代表的なものを挙げたが、いずれにせよ、西ローマ帝国が滅んだ5世紀末からの約1000年間に明るく進歩的な印象を抱く人は少ないだろう。 だが著者は、そうしたネガティブなイメージはここ200年ほどの間に私たちに植え付けられた誤解だと説く。書には、中世に関する11の「フィクション」が登場する。多くの人は、どれも一度は耳にしたことがあるはずだ。 中世の人々は地球が平らだと思っていた。風呂にも入らず、暮らしは不潔で腐った肉も平気でべた。教会は科学を敵視し、今では誰も疑うことのない説も教会の権威によって迫害され続けた。何の罪もない女性たちが何万人も魔女として火あぶりにされた。 これらの説は、文化上構築された「中世」にすぎず、前世紀までに歴史学の専門家によって否定されている。だが、今でも大きな顔をして

    『中世ヨーロッパ ファクトとフィクション』「暗黒時代」という神話はなぜ生き残ってきたのか - HONZ
  • ざっかけない変態料理人の本 『おいしいものでできている』 - HONZ

    昨年、お昼ご飯にレトルトカレーばかりべている時期があった。なかでも「エリックサウス」の南インド風チキンカレーの味が気に入って、二日に一度はべていた。お店には行ったことがないのだが、レトルトで病みつきになった。外出自粛の折、ありがたい限りである。レトルトなんて、という評価はいまどき非常識なのかもしれない。 そのスタンスは書にもある。「ざっかけない(=ざっくばらんな)」という言葉が何度もでてくるのだ。人気店「エリックサウス」の創業者が、ド定番の「おいしいもの」を一品ずつ語っていく。中身は、月見うどん、サンドイッチ、チキンライス、幕の内弁当、小籠包、カツカレー、ホワイトアスパラガス…どれもこれも、身近な料理材たちである。 さすがは自称「変態料理人」。へのこだわりがもの凄い。でもグルメが「おいしいものをべるのが好きというよりはむしろ、おいしくないものをべることが嫌い」な人たちだと

    ざっかけない変態料理人の本 『おいしいものでできている』 - HONZ
  • 『保身 積水ハウス、クーデターの深層』変われないこの国を描く骨太の経済ルポ - HONZ

    読み終えた途端、深いため息が出た。かつて「全員悪人」というキャッチコピーの映画があったが、さしずめ書は「登場人物、全員小物」といったところだ。だが、小物ばかり出てくるのにページをめくる手が止まらない。それはこの小物が私の中にも棲んでいるからかもしれない。このにはまぎれもなく私たちの姿が描かれている。 そのクーデターが起きたのは、2018年1月24日のことだった。住宅メーカーのリーディングカンパニー積水ハウスの取締役会で、会長職にあった和田勇が、社長の阿部俊則が提出した動議によって事実上の解任に追い込まれたのだ。 これは実に奇妙なクーデターだった。取締役会に先立つ2017年6月、積水ハウスは地面師詐欺に遭い、55億5900万円を騙し取られていた。事件をきっかけに立ち上げられた調査対策委員会は、経緯をつぶさに検証した結果、来「騙されるはずがなかった事件」だとして、社長の阿部に経営上の重い

    『保身 積水ハウス、クーデターの深層』変われないこの国を描く骨太の経済ルポ - HONZ
  • 『令和元年のテロリズム』令和日本のいびつな自画像 - HONZ

    ひとつの犯罪が時代を象徴することがある。 令和元年(2019年)5月28日、朝7時40分頃、小田急線とJR南武線が交差する登戸駅近くで、男がスクールバスを待っていた児童や保護者らを次々と包丁で刺した。男は終始無言で凶行に及び、20メートルほど走って逃げた後、突然自らの首を掻き切り絶命した。この間わずか十数秒だった。 犯人によって小学6年生の女の子と39歳の保護者の男性が命を奪われた。また17名の児童と保護者1名が切りつけられ、このうち女児2名と保護者は重傷を負った。これが令和の幕開けに社会を震撼させた「川崎殺傷事件」(川崎市登戸通り魔事件)である。 この事件が「令和元年」を象徴しているというと驚く人がいるかもしれない。わずか2年前のことなのに事件は早くも世間の記憶から薄れつつあるようにみえるからだ。そもそもあなたはこの事件の犯人の名前を覚えているだろうか?また当時、著名人がメディアで発した

    『令和元年のテロリズム』令和日本のいびつな自画像 - HONZ
  • バックパッカーのリアルな生態を描き出す、小説家による旅行記──『四分の一世界旅行記』 - HONZ

    この『四分の一世界旅行記』はSF・奇想短篇集の『半分世界』でデビューし小説家として活躍している石川宗生によるバックパッカーとしての旅行記である。四分の一世界旅行記と題されているように、訪問する場所は中央アジア、コーカサス、東欧の15カ国。世界一周でもなければ、アマゾンの奥地にひそむ巨大ナマズを見つけるみたいなビッグ・テーマや企画がある旅ではない。旅が好きな作家が行った、気ままで地味な旅行記だが、それがなんだかおもしろい。 いまのご時世、インターネットに情報は溢れかえっており、旅先でそうそう絶体絶命のピンチに陥ったりすることもない。言葉が通じなくても、スマホで翻訳すればやりとりできる。ある意味、現代は魅力的な旅行記を書きづらい時代である。書でも当にたいしたことは起こらないのだけれども、その分、旅の細かなディティール──何をべたとか、どんな人と出会ったとか、ちょっとした困りごと、悩みごと

    バックパッカーのリアルな生態を描き出す、小説家による旅行記──『四分の一世界旅行記』 - HONZ
  • 『分水嶺』専門家たちの葛藤を描いた傑作ノンフィクション - HONZ

    何か不測の事態を前にすると、読みの習性でついに手が伸びてしまう。 中国・武漢で発生した原因不明の肺炎に世間が注目し始めた頃、読み直さねばと書棚からひっぱり出したのは、『パンデミックとたたかう』というだった。 このは、SF作家の瀬名秀明氏が東北大学医学系研究科教授(当時)の押谷仁氏と新型インフルエンザについて議論を交わしたものだ。2009年に出ただが、押谷氏の発言に教えられるところが多く、その名が強く印象に残っていた。 付箋を貼っていたところをいくつか抜き出してみる。 「感染症の危機管理の基は、わからないなかで決断をしなくてはいけないことです。その最終的な判断は、やはり政治家がすべきだと私は思います」 「ウイルス性肺炎は、現代の医療現場でも、治療するのが非常に厳しい肺炎です」 「重症者が多発した場合の治療の課題は、医療体制の問題として、日はICUのベッドや人工呼吸器が限られてい

    『分水嶺』専門家たちの葛藤を描いた傑作ノンフィクション - HONZ
  • 『ヒトはなぜ自殺するのか 死に向かう心の科学』死について考えることと、生について考えること - HONZ

    テーマがテーマだけに、気分が落ち込んでいるときに読むべきではないだろう。しかし、気持ちが落ち着いているときに、自殺というテーマに関する知識を得ておくことは、いつの日かあなた自身やあなたの周りの大切な人を救うことになるかもしれない。そんなワクチンのような役割を果たす一冊である。 著者のジェシー・べリングは、前作『性倒錯者』と同様に、自分自身の実体験をカミングアウトすることから書を始める。自分のセクシュアリティに悩んでいたときのこと、学者として燃え尽き症候群になったときのこと。失業して家の近くの森で自殺の想念にとらわれたときのこと。 そんな主観的なプロローグから話は一気に客観の世界へ飛び、著者は「ヒトはなぜ自殺するのか」というシンプルな問いに、ヒトの心の進化という観点から挑んでいく。 1つ目のアプローチは、自殺を「種」の観点から見るもの。はたして自殺するのは人間だけなのか? もし自殺が人間

    『ヒトはなぜ自殺するのか 死に向かう心の科学』死について考えることと、生について考えること - HONZ
  • 『絶望死のアメリカ 資本主義がめざすべきもの』米国が直面する悪夢 レントシーキングの罪 - HONZ

    われわれ人類の平均寿命は延び続け、死亡率は低下し続けている。それは、先進国と発展途上国の別なく起きている。当然、喜ぶべき事象だ。 しかし、近年、米国の大卒未満の白人の間には、この世界的な潮流とは逆の傾向が見られる。労働階層の白人たちの平均余命は短くなり、死亡率が上がっているのだ。1990年代末頃から、とくに45〜55歳の低学歴中年白人の死亡率は年々高くなっているという。ちなみに4年制大学を卒業した高学歴の白人には同様の傾向はまったく確認されていない。 著者らの調べから、彼らの死亡率を大幅に上げている原因が、オピオイドなど医療用薬物の過剰摂取による中毒事故、アルコール性肝疾患、そして自殺であることが判明する。これらは自らが招いた死、それも人生に絶望した者が陥る死だ。著者らはこれを「絶望死」と呼ぶ。 いま、低学歴白人が経験しているのは、労働環境の崩壊、貧困、コミュニティーの破壊、宗教の衰退だ。

    『絶望死のアメリカ 資本主義がめざすべきもの』米国が直面する悪夢 レントシーキングの罪 - HONZ
  • 『潜匠 遺体引き上げダイバーの見た光景』宮城の海に潜り続けた男の濃密な半生を描く評伝 - HONZ

    その人にしか語り得ない境地というものがある。人生は十人十色だが、特殊な技能が必要で、なおかつ特異な環境に我が身を起き続けた人の軌跡はとりわけ面白い。 書は、若くして潜水の才能を発揮し、宮城の海から無数の遺体を引き上げてきた男・吉田浩文の激動の半生を綴る克明の記録である。 初めての遺体引き上げは1996年。死者は交番勤務の男性警察官で、車ごと海中に突っ込む入水自殺であった。 岸壁が関係者でごった返すなか海に潜り、遺体の青白い顔に鳥肌が立ったものの、車に手早くワイヤーをくくりつけ、的確にクレーン引き上げを指示した。祖父の代から潜水業を営み、高校は日で唯一の潜水土木を専門で教える岩手県種市高等学校に進学。29歳の若さとはいえ潜水士としては10年以上のキャリアを持つ吉田には容易い仕事だった。 機動隊や海上保安部のダイバー隊員をはるかに上回る高い技術を買われ、警察から次々と遺体引き上げ案件が舞い

    『潜匠 遺体引き上げダイバーの見た光景』宮城の海に潜り続けた男の濃密な半生を描く評伝 - HONZ
  • 『日本の包茎』作られた「恥ずかしさ」をめぐって - HONZ

    にブックカバーはつけない。これを長年の流儀としてきた。 通勤電車でを開くと、目の前に座る人の視線がきまって表紙に注がれる。との出会いは何がきっかけになるかわからない。中には電車でたまたま見かけて興味を持ち、を買う人だっているかもしれない。出版文化への貢献のためなら、喜んで歩く広告塔になろう。そう考えて、どんなであろうと(たとえ『性豪』や『鍵開けマニュアル』といっただろうと)顔色ひとつ変えず公衆の面前でを開いてきた。それがハードボイルドな俺の流儀だった。 だが、書を手にした時、初めてその覚悟が揺らいだ。 いや、覚悟が揺らぐなんてちょっとカッコつけ過ぎである。正直に言おう。気後れしてしまったのだ。臆病な犬のように尻尾を股の間に挟んで後ずさりしてしまったのだ。カバンに手を突っ込んだまま固まっている俺を、目の前の女が不安そうに見上げた。銃を持っているとでも思われたのかもしれない。怯

    『日本の包茎』作られた「恥ずかしさ」をめぐって - HONZ
  • 音楽で生きる、東京で生きる。『調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝』 - HONZ

    近田春夫を知っている人は、すでに読んだにちがいない。知らない人は、いますぐ読んでほしい。音楽で生きる、東京で生きる、その2つを味わえる。日のロック、パンク、ヒップホップ、さらにはJ-POPやCM音楽まで網羅した音楽史であり、東京でクールに生きてきた大人の足跡を体感できるだろう。 タイトル「調子悪くてあたりまえ」は、ビブラストーンの名曲からとられている。ご存知ない方は、動画サイトで確かめよう。そのあとで、曲名の意味、そして、ビブラストーンというバンドについて、ぜひ書を開いてもらいたい。 著者は、1951年2月25日、世田谷に生まれる。NHKに勤めたあとTBSに移る父親と、音楽教師の母親を持つ。IQ、知能指数169をたたきだした天才児だったので、慶應幼稚舎に入る。 「僕は春夫君とやっていく自信がないんです・・・」と担任教師が嘆くほどの多動症で、人を笑わせるのが好きだった。にぎやかな場所にい

    音楽で生きる、東京で生きる。『調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝』 - HONZ
  • 『恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』チーム研究の第一人者が唱える「心理的安全性」とは? - HONZ

    『恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』チーム研究の第一人者が唱える「心理的安全性」とは? 組織の中で、自分の発言が曲解されてしまうのではないかとか、それで足を引っ張られるのではないかと心配しだしたら、表立った発言は控えるようになり、裏で根回しするようになるのではないだろうか。 今回の東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の女性理事登用についての発言も、むしろそうしたありがちな状況を積極的に利用して会議を早く終わらせてしまおうという、いかにも日的なものだったのではないかと思う。 こうした問題は、組織で働いたことがある人なら、多かれ少なかれ誰でも経験しているはずである。そうした何とも言えない嫌な空気から解放された組織を、「恐れのない組織(The Fearless Organization)」という分かりやすい言葉で示してくれたのが書である。 書は、『

    『恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』チーム研究の第一人者が唱える「心理的安全性」とは? - HONZ
  • 日本からもオーロラが見えた!『日本に現れたオーロラの謎』 - HONZ

    でもオーロラが見えていたことをご存じだろうか。しかも、直近では昭和33年、約60年前で、これは写真での記録もバッチリあるという。 このは、タイトルこそ『日に現れたオーロラの謎』だが、サブタイトルに「時空を超える」や「赤気」という言葉が入り、著者名も片岡「龍峰」さんで、とどめにカバーのイラストで、山から赤いオーラみたいなものが出ている。ぱっと見「スピリチュアルのなのかな?」と思ったが、を開くと宇宙空間物理学が専門の、オーロラの科学者による科学のだった。 しかも、ただの科学のではない。著者が在籍している国立極地研究所(南極の昭和基地を 運営しているところらしい)は、国文学研究資料館と同じ場所にあるそうで、つまり物理的な距離も近いので理系と文系の研究者で、オーロラの共同研究をしたそうなのだ。 日の文献には「オーロラっぽい」記述がいくつかあるという。 こので取り上げているのは、

    日本からもオーロラが見えた!『日本に現れたオーロラの謎』 - HONZ
  • 『アルツハイマー征服』圧倒的な取材力と筆力で読ませるサイエンス・ノンフィクション! - HONZ

    書のプロローグは、「青森のりんごの形が良いのは、季節ごとに、こまめに手当てをするからだ」という、青森在住のわたしにとっては、不意を突かれる一文ではじまります。 なぜ、アルツハイマーので、青森のりんごなのか? その理由はすぐにわかりました。青森には、家族性アルツハイマーの大きな一族があるというのです。長身で美男美女の多いその一族は、おそらくは結婚相手に困ることはなかったのでしょう、よく繁栄したといいます。しかしどういうわけか、四十代、五十代になると、おかしなことが起こる。二戸陽子さん(仮名だそうです)の身にも、それが起こります。四十歳になる頃からりんごの作業ができなくなり、やがて、りんごの収穫期に、りんごの実ではなく、葉っぱを摘んで持ち帰るようになる。すると一族の人たちは、こうささやきあったそうです。「これはまきがきたのかもしれない」 ここでわたしはまたしても、ドキッとしました。「まき」

    『アルツハイマー征服』圧倒的な取材力と筆力で読ませるサイエンス・ノンフィクション! - HONZ
  • 『2040年の未来予測』2040年の未来から見た我々は、今、何をしなければならないのか? - HONZ

    書を読んで、まずこれはとても正直なだと思った。未来予測にありがちな過度な楽観論を振りまく訳でもなく、かと言って日人特有の過度な悲観論でもない。煽らず卑下せず、必要十分なことが淡々と書かれている。 そして、書は、とにもかくにも還暦を迎えた私などより若い人に是非読んでもらいたいと思う。と言うより、若い人は絶対に読まなければいけない必読書である。 著者の成毛氏自身、「みなさんが現在60代なら『逃げ切れる』かもしれないが、50代前半以下ならば2040年に向けて備えが必要だろう」と言っている。 多分、書の読者は、旧日軍の失敗の質に迫った歴史的名著『失敗の質』を、敗戦前に読んでいるような感じを受けるのではないか。2040年の未来から現在をバックキャスティングで見た感じとでも言えば良いだろうか。 客観的に見て、日の未来は決して明るくない。一番確実な未来予測である人口動態から見ても、日

    『2040年の未来予測』2040年の未来から見た我々は、今、何をしなければならないのか? - HONZ
  • 2020年 今年の一冊 - HONZ

    HONZメンバーが選ぶ今年最高の一冊。コロナ一色だった2020年も、このコーナーがやってまいりました。 2011年から始まったこのコーナーも、なんと今年で10回目。歴代のラインナップはこちらから見られるのですが、「2011年はメンバー12人しかいなかったのかよ」とか「やっぱり2017年の塩田春香を野グソで挟んだ年が神回だな」とか、色々と感慨深いものがありますね。 そんなワケで、今年もメンバーがそれぞれの基準で選んだ今年最高の一冊を紹介してまいります。まずは今年入った新メンバーと、僕宛に原稿を送るとき、Facebook Messengerで送ってきた人たちによる紹介です。 ちなみにHONZメンバーへの業務連絡ですが、原稿を送る時はMessengerへテキストをダイレクトに貼った状態で送ってくれると一番ラクで助かります。 鈴木 洋仁 今年最も「ジャケ買いした」一冊 このは、レコードマニアによ

    2020年 今年の一冊 - HONZ
  • 『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』成長か、それとも変節か。悲哀と戸惑いの成功譚 - HONZ

    リベラル・アーツは、「教養」と訳されることが多い。しかしその語源は古代ギリシャにまでさかのぼり、「奴隷ではない自由人として生きるための技術」の意味を持つという。そんな大げさなと思われるかもしれないが、書からはその意味を十分に感じとることができる。 モルモン教原理主義のサバイバリストである反政府的な両親の下、学校や病院とは無縁の環境で育った少女が、やがて大学に進学することで成長。ついには英ケンブリッジ大や米ハーバード大で学ぶようになり、学位も取得する。 書は、そんな彼女の半生を綴った自叙伝だ。一見、ただのサクセスストーリーのように思えるかもしれない。しかし、これほど悲しいサクセスストーリーもないのではというくらいにその軌跡は壮絶だ。 少女時代のエピソードは、読むだけでとてつもない疲労感に襲われるだろう。「道理が通じない」というだけで、ここまでの絶望を与えることができるのかと驚く。 スクラ

    『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』成長か、それとも変節か。悲哀と戸惑いの成功譚 - HONZ
  • 『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』 ターニングポイントは親との決別 - HONZ

    著者のタラ・ウェストーバーは1986年生まれの34歳。現在ハーバード大学公共政策大学院上級研究員で歴史家。エッセイストでもある。 彼女はアイダホ州クリフトンで父親の思想が強く反映された反政府主義を貫くサバイバリストのモルモン教徒の両親のもと、7人兄弟の末っ子として生まれた。 公立学校へは通わせてもらえず、家庭内で科学や医療を否定した偏った教育を受けて育った。父の事業の廃品回収とスクラップの仕事を手伝わされ、危険な作業を強いられた。 母は薬草のオイルや軟膏を使った民間療法による助産婦として徐々にその地域の信頼を獲得していく。 一人の兄が親を捨てて大学に入学したことでタラも勉学に対する強い欲求が芽生える。猛勉強のもと自宅学習者(ホームスクーラー)を受け入れるブリガム・ヤング大学へ入学が叶った。だがどの授業も初めて聞く話ばかり。最初は勉強の仕方もわからなかったタラが目を瞠るような変貌を遂げていく

    『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』 ターニングポイントは親との決別 - HONZ
  • 『2016年の週刊文春』個人的2020年のベスト・ノンフィクションはこれ! - HONZ

    文藝春秋は、「文藝」と「春秋」がくっついた会社だとよくいわれる。もちろんこれはふたつの会社が合併したということではない。文藝は文字通り文芸作品のこと、春秋は日々の出来事が積み重なった年月を指す。文藝春秋という会社は、文芸と日々の出来事を追うジャーナリズムとがくっついた会社なのだ。 「春秋」の大きな柱が『週刊文春』であることは誰もが認めるところだろう。いまや飛ぶ鳥を落とす勢いの『週刊文春』だが、実は部数は最盛期に及ばない。にもかかわらず、その存在感は他メディアを圧倒している。その秘密はどこにあるのか。 書は、花田紀凱と新谷学というふたりのカリスマ編集長を軸に、創刊から60年を超える『週刊文春』の歴史と文藝春秋100年の歴史を描いたノンフィクションである。人物ノンフィクションとしても、出版メディア論としても抜群におもしろい。文字通り寝を忘れて一気読みしてしまった。 花田紀凱と新谷学。両氏に

    『2016年の週刊文春』個人的2020年のベスト・ノンフィクションはこれ! - HONZ
    akihiko810
    akihiko810 2020/12/18
    著者は柳澤健か!期待
  • 『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記 こうして私は職業的な「死」を迎えた』げに恐ろしき、出版界の裏事情を綴る真摯な暴露本 - HONZ

    『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記 こうして私は職業的な「死」を迎えた』げに恐ろしき、出版界の裏事情を綴る真摯な暴露 このをここで紹介していいものか迷ったが、著者の真摯な姿勢に心を動かされたので、おもねらずにレビューしてみたい。 書は、ベストセラー『7つの習慣 最優先事項』の訳で一躍売れっ子翻訳家になった著者が、出版社との様々なトラブルを経て業界に背を向けるまでの顛末を綴った、げに恐ろしきドキュメントだ。 驚くことに、名前こそ伏せてあるが、理不尽な目に遭わされた出版社のプロフィールが文や帯でずらずら書かれている(業界歴の長い人ならすぐにわかるのではないか)。著者の名前をネットで調べれば翻訳を担当した書籍がばんばん出てくるし、もはや告発書、暴露と言っても過言ではない。 まずは著者が経験した「天国」から。 出版翻訳家を夢見たのは21歳のとき。大学卒業後は大学事務員、英会話講師、

    『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記 こうして私は職業的な「死」を迎えた』げに恐ろしき、出版界の裏事情を綴る真摯な暴露本 - HONZ