謀略によって追放の刑を受けた、エル・シードは、妻と娘たちを修道院に残し、騎士の一団を従えて出国 する。だが、国王への忠誠は変わることなく、歴戦の末、モーロ王国の大都を攻略し、最高の栄誉を獲得した。レコンキスタ 期の史実をもとに伝説的英雄を描いたスペイン文学最古の武勲詩は、当時の人びとの姿を直截的に活写する。 少年ラサーロが、悪知恵にたけた盲人や欲深坊主、貧乏なくせに気位は高い従士やいんちき免罪符売りと、 次々に主人をわたり歩いてなめるさんざんな苦労の数々。16世紀当時のスペインの社会や下層民の生活が風刺鋭く、簡潔な 描写で赤裸々に写しだされてゆく。ピカレスク小説をヨーロッパに流行させるさきがけとなった傑作。