ブックマーク / www.whitepapers.blog (12)

  • 長谷川等伯ではなく浮世絵を見る 〜石川県立七尾美術館 - ことばを食する

    富山県氷見市から日海に面した山中の高速道路を走り、能登半島の中ほどに位置する石川県七尾市へ向かいました。8月末だというのに、車の温度計は35度。 歴史的に七尾市は海運で栄え、戦国期には背後に迫る半島の丘陵に室町幕府の有力大名で管領・畠山一族の山城が築かれていました。能登は江戸期以降、加賀藩に組み込まれましたが、船の往来でむしろ越中(富山県)と結びつきが強い地でした。 その七尾に、長谷川信春という若い絵師がいました。彼は志を持って京に上り、やがて安土桃山時代を代表する絵師になります。 長谷川等伯です。 松林図屏風(長谷川等伯。国宝、六曲一双。東京国立博物館蔵) 文化的にはきらびやかな安土桃山時代。色彩の魔術師・等伯がたどり着いたのは、墨の濃淡の世界でした。彼の一生は安部龍太郎さんが「等伯」(直木賞受賞作、文春文庫)で描いています。 石川県立七尾美術館には、若き能登の絵師・信春時代の等伯作品

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    ap14jt56 2023/09/03
  • 正月に、飲んで包丁を研ぐ - ことばを食する

    面白い小説は、例外なく脇役が魅力的です。悪者であれ善人であれ、主役を生かすのは脇役ですから、彼らがくっきり描かれているほど、その対比で主役が際立ちます。 題名を忘れてしまったのですが、北方謙三さんの時代小説にちょい役で出てくる研師がいます。 偏屈な老人で、気が向かない仕事は一切受けない貧乏暮らし。しかし、研師としての感性がざわめく刀に出会うと、人が変わります。 三日三晩、い物は塩握りと水だけで刀を研ぎ続けます。何人もの血を吸った刃の曇りを、ひたすら研ぐことで清めようとするのです。これ以上人を斬って曇るな、と。 ところが、刃先を清め、鋭利な輝きを与えるほど、そこに新しい血を求める妖しい気配が宿ってしまう。... あけましておめでとうございます。 正月2日、夕方から台所で立ち飲みしながら、包丁を研ぎました。酔っ払っても集中力を求められる微妙な作業ですが、集中力の方が勝っていて、しかしちびちび

    正月に、飲んで包丁を研ぐ - ことばを食する
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    ap14jt56 2023/01/03
    なんとか切らずに済みました^^。今年もよろしくお願いいたします。
  • お絵描きの近況 - ことばを食する

    先月から、油の絵筆を持ってF10のキャンバスにしこしこ再開しました。下塗り段階で、今は大まかな色のイメージを固めているさ中です。描いているのはモズの巣。地元のバードウオッチセンターに展示してあるのです。 今はこんな具合ですが、これでは抽象画みたいな...。 もうしばらく、背景にいろんな色を薄く塗り重ねて空気感を手探りし、今月末くらいから、格的な描き込みに入りたいと思っています。 鳥の巣を形成する藁、細枝11、羽根の細部まで緻密に写実表現したいので、完成は来年夏が目標かなあ。 ちなみに、モチーフにするモズの巣の写真はこんな具合。うーん、この線全部描くなんで、無謀だろうかw。その無謀を、急がず楽しむことにします^^ **************** 急に寒くなって桜の落葉が庭に重なり、踏みしめて歩くとカサカサ鳴ります。晩秋の音ですね。 おまけで、前作の静物画のメイキング画像でも載せて(再

    お絵描きの近況 - ことばを食する
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    ap14jt56 2021/11/11
    油彩の鉛筆はなくて、描き込みに入ったら極細の筆を使います。前作の静物は額に入れて部屋に掛けてます^^
  • わたしの人生は誤りだったのか 〜「浮世の画家」カズオ・イシグロ - ことばを食する

    敗戦によって根底から社会の価値観が覆った1948年ー50年の日を舞台に、ある画家の心の揺らぎを、一人称の<わたし>の世界として描いたのが「浮世の画家」(カズオ・イシグロ、飛田茂雄=訳、ハヤカワepi文庫)です。 戦時中に至るまでの<わたし>は著名な画家であり、戦争に向けて国民を鼓舞する作品を発表していました。激動の時代に芸術家として生きる<わたし>の、信念に基づいた姿勢でした。 しかし、敗戦によって日には米国流の価値観と民主主義が持ち込まれ、<わたし>への世間の視線は一変します。画家としては引退同然になり、娘の縁談が進まないことを気に病み、自らの人生を振り返るのです。 以上は小説の骨格ですが、作品としての魅力は<わたし>の意識の流れに任せた、骨格への<肉付け>にあります。全編が回想による語りで、意識はしばしば違うところへ流れ、また戻ってきます。 そして<わたし>の主観にとって事実である

    わたしの人生は誤りだったのか 〜「浮世の画家」カズオ・イシグロ - ことばを食する
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    ap14jt56 2021/05/24
    私はカズオ・イシグロさん、まだ2冊しか読んでいないので、この作品をもってイシグロさんの全てが読み取れるとは到底言えませんが、若い時代の作家としての方向性はよく伝わってくると思います^^
  • だれにも届かない声 〜「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ - ことばを食する

    <52ヘルツのクジラ>とは何か。普通のクジラの鳴き声は10ー39ヘルツの周波数。ところが52ヘルツで鳴くクジラがいて、世界で一番孤独だと言われているそうです。仲間のクジラに、その声は高すぎて聞こえないから。 2021年屋大賞の第1位になった「52ヘルツのクジラたち」(町田そのこ、中央公論新社)には、文中でそんな説明があります。インタビュー記事によると、町田さんは別の作品で海洋生物学について調べているときに存在を知り、あたためていたイメージだったとか。 一見、奇妙なタイトルですが、意味を知れば作品を見事に表していると分かります。児童虐待を経験した主人公の女性。偶然彼女と出会う男の子は、現在進行形で虐待を受けています。重要な役割を果たす、トランスジェンダー(心と体の性が一致しない人)の男性。52ヘルツのクジラたちなのです。 彼らは密かに、理不尽で残酷な仕打ちに心を潰されながら、誰にも届かな

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    ap14jt56 2021/04/18
    2021年本屋大賞
  • 涙腺狙い打ち ファンタジーの魅力 〜「かがみの孤城」辻村深月 - ことばを食する

    ファンタジーであり、ミステリーであり、そして、読書の時間を理屈抜きに楽しませてくれる小説です。「かがみの孤城」(辻村深月、ポプラ社)は、2018年の屋大賞受賞作。 中学に進学したばかりの<こころ>は、名前の通り繊細な心を持つ、どこにでもいる女の子。ふとしたことから、クラスを牛耳る女子グループに目をつけられ、学校に行けなくなっています。 大人の一歩手前、まだ子どもの純真さと残酷さを併せ持つ世界が、物語のベースです。特に女の子たちの心の描写、これは女性作家でないとできないだろうなあ。男のわたしも違和感なく「ふむふむ」と、読めはするのですが。 登校できず、1日中引きこもる<こころ>。あるとき部屋の姿見が光を発してー。 鏡が異世界に通じているーという設定は、幻想文学や児童文学の定番ですね。「鏡の国のアリス」や、衣装ダンスが通路になる「ナルニア国物語」が思い浮かびます。そして<こころ>の部屋の鏡の

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    ap14jt56 2021/04/14
  • 彼は立ち止まらない 〜「久遠」など刑事・鳴沢了シリーズ 堂場瞬一 - ことばを食する

    最近<リーダビリティ readability>という言葉を知りました。「先へ先へと読ませる力」という意味でしょうか。あの作家はリーダビリティが高い、といった使い方をするようです。 いい小説の条件を考えるなら、結局は「面白いか否か」というシンプルな出発点に尽きると思っています。夜が更けるのも忘れて読み耽った子供のころの思い出を、どれだけ追体験させてくれるか。自分にとってリーダビリティの高さは、面白さの分かりやすい指標です。 「久遠」(堂場瞬一、中公文庫上下)は、鳴沢了という若い刑事を主人公にしたシリーズ全10作の完結編。第一作以来、常に犯罪に立ち向かい、犯人を追い詰めてきた若い刑事・鳴沢が、いきなり殺人の容疑者として同僚から追われる展開で幕が開きます。 ストーリーの広がり、脇役たちの立ち上がるキャラクター。相変わらず、リーダビリティが高いなあ。 私は小説の酸いも甘いも(?)齢相応に経験した<

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    ap14jt56 2020/11/03
  • 花火はなくても 天の川はある 〜「おくのほそ道」松尾芭蕉 - ことばを食する

    必要に迫られ、芭蕉の「おくのほそ道」を再読しました。再読と言っても、前に読んだのがおよそ40年前となれば、ぼぼ初読のようなものです。部屋の古典を集めた一角から引っ張り出してきたのは、昭和53年3月15日発行の講談社文庫(板坂元・白石悌三 校注・現代語訳)。 当時は大学生で英文科、サークルは仏文研だったわたしが、どうしてこの文庫を買ったのか、今となればまったく謎です。ともあれ、文は70ページに充たない俳句の紀行文。必要箇所以外は斜め読みすれば(多少意味は分からなくても...w)、それほど時間はかかりません。 一読者として思ったのは、2点。名作と言われるものは、書き出しがいい(ひねくれた言い方をすると『うまい』)ということ。そしてもう1点、これは紀行文という体裁の文学作品、つまり「フィクション」なのだということです。どちらもまあ、当たり前のことなのですが。 月日は百代の過客にして、行きかふ

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    ap14jt56 2020/07/21
  • 「反日種族主義 日韓危機の根源」がトップ 〜月間ベストセラー・2019年11月期 - ことばを食する

    最悪と言われる日韓関係が続く中、2019年11月期のベストセラーが発表されました。「反日種族主義 日韓危機の根源」が初登場でトップ。韓国歴史認識の誤りを直裁に指摘し、国で話題になったの日語版です。徴用工や慰安婦、竹島問題などについて、韓国の学者やジャーナリストが実証的に検証し、韓国社会に蔓延する「嘘」を指摘しています。 歴史認識とは、言葉の通り「認識」の問題ですから、そこに多様な視点が存在するのは当然です。ただし、可能な限り客観的な「歴史事実」を踏まえた上での解釈(認識)の違いでなければ、異なる認識をもつ人びとの間で議論は成り立ちません。 わたしが驚いたのは、韓国でこうしたが書かれ、かつ話題になったこと。歴史事実を伝えない教育の在り方も含め、さまざまな厳しい指摘(韓国社会にとって)が展開されます。ただし、わたしたちの側も、冷静な歴史認識に努める必要があるのは言うまでもありません。

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    ap14jt56 2019/12/05
  • ウオーキング継続中 はてなスターは休止 〜近況など - ことばを食する

    12月が迫り、紅葉シーズンも終わりが近づいてきました。わたしは降雪地帯に住んでいるので、これからなかなか晴れ間がなく、風が冷たい冬は趣味のウオーキングが辛い季節になります。 それでも完全防寒で歩きますが(もしかしたらアホかもしれません)、歩行が困難になるほど雪が積もるとさすがに休止です。写真のような積雪になると、春まで冬眠したくなります。。。 2018年2月 自宅近辺 歩くのは週3回、90分以上かけて8〜10キロほどです。飽きないように何種類かのコースを決めていて、どの道にするかは気分次第。決まっているのはどのコースも後半にコンビニがあることで、夜に飲む発泡酒か焼酎を買い、リュックに背負って自宅を目指します。楽しみがなければ続きませんw。 目的はもちろん運動不足解消とダイエット。目標は1日の平均歩数を、歩かない日も含めて1万歩にすること。あくまで「目標」なので誤解なきよう...。 ところで

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    ap14jt56 2019/11/28
    ど田舎です〜。都会のビル風も寒さが沁みますが、むしろ雪に閉ざされた方が開き直れますw
  • 2006年(平成16年) ベストセラー回顧 - ことばを食する

    「劇場型」とも言われた小泉政権が9月に終わったこの年、日は一つの曲がり角だったのかもしれません。総人口がいよいよ減少に転じたことが明らかになり、いじめの自殺が各地で相次ぎました。ライブドア事件、村上ファンド事件も記憶に新しいところです。IT、企業買収などいかにも現代的な経済舞台での出来事でした。 「国家の品格」がベストセラーになり、「品格」はこの年の新語・流行語大賞になりました。「××の品格」と題したも相次いで出ましたね。 2006年(平成18年) 主な出来事 東京地検がライブドア強制捜査(1月) トリノ五輪で荒川静香金、イナバウワーが流行語に(2月) 安倍政権=第1次=発足(9月) 2005年の国勢調査がまとまり日の人口が減少に転じたことが判明 【総合】 ①「国家の品格」 藤原正彦 ②「ハリー・ポッターと謎のプリンス」  J.K.ローリング 松岡佑子 訳 ③「東京タワー オカンとボ

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    ap14jt56 2019/07/06
  • いのちに向き合う 〜「新章 神様のカルテ」夏川草介 - ことばを食する

    「新章 神様のカルテ」(夏川草介、小学館)は、地域病院で悪戦苦闘した若い医師・栗原一止(いちと)が、舞台を新たに患者と向き合い、巨大組織の権力構造の中でもがく「大学病院編」スタートとなる1冊です。こういう場合の決まり文句ですが、たとえ前作までを読んでいなくても、十分に楽しめる内容に仕上がっています。 人間というものに対して、優しい視線が貫かれた小説。29歳で膵臓がんになり、死へと急ぐ若い女性患者を縦糸に、栗原らの内科チームが刻々と深刻化する病態に立ち向かいます。現代医学では勝てないと分かっている病気と闘いながら、医師たちに、患者に、どんな救いが用意されているのでしょうか。 人間社会のマイナスを凝縮したような、大学病院という組織が厳しい楔として背景にあり、一方で長野・安曇野の美しい自然があちこちにきめ細かく描写されます。この対比は、どんないのちも大きな自然の一部なんだよと、無言のうちに伝えて

    いのちに向き合う 〜「新章 神様のカルテ」夏川草介 - ことばを食する
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    ap14jt56 2019/06/07
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