2023年3月21日のブックマーク (1件)

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    一 ギルフイラン、ラヂオ商会の飾窓(シヨウウインドウ)の飾りを終へて、――金を受取つて、いつもの様に曾我(そが)たちと、彼等の仕事場で落合ふために、上野行の電車へ僕が飛乗つたのは、かれこれ九時を廻つた時分だつた。暮れがた暫く振りで快よい夕立が東京の半天を襲うて、それがわづかの間だつたが、銀座の甃路(ペエブメント)をも掠めたので、夜に入つてから、そこらはすつかり不透明な昼間の蒸暑さを消散させてしまつた。停留所で電車を待合はせて居る間、ちよいと気にして空を仰いでみると、乱雲がものものしくまだ頭の上にどよめいて、時々未練がましい電光が隅の方から神経的な光を走らせて居た。それが、――もしかするともう一雨ぐらゐは沫(しぶ)かせない限りもないと、さう威嚇して居るかの様でもあつた。 わづかな雲きれが空に浮游して居ても、時にはそれが、――曾我たちの口調を借りれば、――心あつてするかの様に、しつこく仕事の邪