ウクライナ財務相のアドバイザーを務める田中克さん=東京都千代田区の国際協力機構(JICA)本部で2022年5月2日午後2時20分、辻本知大撮影 ロシアの侵攻を受けるウクライナで、財務相のアドバイザーを務める日本人がいる。元日銀マンの田中克さん(68)だ。情勢悪化を受けて今年1月に帰国するまで、約5年にわたり現地で国有銀行の再建に取り組んできた。不安定な経済基盤、はびこる汚職、ある大国の暗躍……。田中さんが見たウクライナとは。 消える公的資金 ――ウクライナ財務相のアドバイザーに就いた経緯を教えてください。 ◆2015年にあった当時の安倍晋三首相とウクライナのポロシェンコ大統領の首脳会談で、ウクライナ側から金融システム再建への協力要請がありました。前年、親ロシアのヤヌコビッチ政権が倒れたことを受けてロシアが南部クリミア半島を強行編入し、ウクライナの情勢は不安定化して経済も低迷しました。主要7
ウクライナのゼレンスキー大統領=ウクライナの首都キエフで2022年3月10日、ウクライナ大統領府提供の映像から・AP ロシアの侵攻を受けるウクライナでゼレンスキー大統領(44)が強い指導力を発揮し、国家存亡の危機の中で国民を結束させている。元コメディアンという経歴が強調されがちだが、地元の恩師らが語る若き日のエピソードからは、違った素顔が見えてくる。 10代からコメディアンとして活動 ゼレンスキー氏はウクライナ南東部にある工業都市クリボイログの出身。ロシア語を話すユダヤ系家庭で育った。コメディアンとしての活動は10代だった1990年代半ばにさかのぼる。学校の友人らとコメディーユニット「クバルタル95」を結成した。地元のキエフ国立経済大に進学した後も活動を続け、旧ソ連圏内でも知られる人気ユニットになった。 記者はモスクワ特派員時代の2019年、若き日のゼレンスキー氏を知る人たちを現地で取材し
田中英寿前理事長の逮捕を受け、記者会見を開いて謝罪する日本大学の幹部ら。一連の不祥事は私学のガバナンス改革の議論にも影響を及ぼした=東京都千代田区で2021年12月10日午後6時4分、宮間俊樹撮影 日本大学の前理事長による脱税事件などで私立学校のガバナンス(経営統治)が注目を集めている。政府内では、事件前から見直しの必要性が指摘されており、文部科学省が2021年中に改革案を公表するはずだった。ところが、私学側の反発で調整がつかず、年明け以降も議論を続けることになった。どうしてここまでこじれてしまったのか。【大久保昂/東京社会部】 「改めて関係者の合意形成を図る場を設け、最終的な改革案を検討する」 年の瀬が押し迫った昨年12月21日。末松信介文科相は閣議後の記者会見で、私学のガバナンス改革について、私学関係者も交えた新たな会議を設け、議論を継続する考えを表明した。 昨年6月に閣議決定した「経
ツイッター上の議論について「白か黒かに振り切れやすい」と語る作家の温又柔さん=東京都千代田区で2021年11月11日、内藤絵美撮影 「もう、限界だなと思ったんです」。作家の温又柔(おん・ゆうじゅう)さん(41)が10月、ツイッターでの積極発信をやめた。台湾で生まれて日本で育った自身のルーツに向き合う小説を書き、ツイッターでは、差別やジェンダー、格差などの社会問題について積極的に発信してきた。それなのに、なぜツイッターをやめたのか。ツイッターという言論空間について今、何を思うか。温さんに聞いた。【塩田彩/デジタル報道センター】 台湾と中国、日本を巡って応酬 <素敵なこともたくさんあったけれど、それを上回ることが、くやしいけれど、ほんとにほんとに辛かった> <TwitterJapan(ツイッタージャパン)はたぶん企業としてこの状況を恥じてない。だから見切りをつけます> 10月中旬、温さんは自身
以前、水道橋博士さんと対談をしたとき、「獄中読書」の話題で盛り上がった。なんと、博士のところには、「獄中生活で読む本」を集めた本棚があるというのである。さすが。問題は、なかなかその本を読むような事態にならないことだと嘆いておられた。早く、そんな機会が訪れるといいですね。 そもそも、そんな話になったのは、わたしが「獄中読書」をさせていただいたことがあるからだ。いろいろ途中経過を省略していうと、要するに、19歳の頃、8カ月ほど拘置所に滞在することになり、他になにもすることもないのでたくさん本を読んだのである。 生涯であれほど、本を読んだことはなかったのではないかと思う。朝起きてから夜寝るまで、ほぼ読書。外国語はドイツ語とロシア語を独習し(残念ながらもう忘れたが……)、たぶん、「外」の世界にいるときには読む気にならないような大作にも挑戦できた。『資本論』とか『失われた時を求めて』とかである。それ
自宅療養者のうち酸素投与が必要となった人のための「酸素投与ステーション」を視察後、取材に応じる東京都の小池百合子知事(右奥)=東京都渋谷区で2021年8月21日、宮間俊樹撮影 新型コロナウイルス感染症の治療について、政府は入院対象者を重症患者や特に重症化リスクの高い人に絞り込み、原則自宅療養とすることを可能とする方針に転じた。 急激な感染拡大に慌てふためいたあげくの窮余の策だ。とはいえ、国の大方針は以前から医療も介護も「在宅」が基本。コロナ禍での「入院難民」の続出は、日本の医療、介護の将来像かもしれない。 病床数のつじつま合わせ 5月のゴールデンウイークのさなか、東京都内で元公務員の70代の独居男性が自宅の風呂場で死んでいるのが見つかった。男性は「胸がおかしい」と訴え、知人から医者にかかるよう勧められていた。それでも発熱はなく、そのままにしていたという。足が悪く閉じこもりがちだった男性は食
自殺した赤木俊夫さんが「赤木ファイル」の最初にとじていた、財務省側から近畿財務局に転送された内部メール。野党議員から提出要求された決裁文書の隠蔽(いんぺい)を示唆する内容などが記載されていた 学校法人「森友学園」への国有地売却を巡り、財務省の決裁文書改ざんを苦に自殺した近畿財務局職員、赤木俊夫さん(当時54歳)が残した「赤木ファイル」。改ざんの詳しい経緯ばかりに目を奪われがちだが、ファイル冒頭には財務省のもう一つの不正を裏付ける「新証拠」のメールもとじられていた。赤木さんはなぜこの文書を残したのか。その答えを探し、メールで名指しされたキーマンを訪ねた。(後段でインタビュー内容を詳報) ファイルは6月22日、国が赤木さんの妻雅子さん(50)の求めに応じる形で開示した。改ざんの経緯が時系列にまとめられた備忘記録に加え、本省と財務局で交わされた計約40通の電子メールが含まれ、佐川宣寿(のぶひさ)
衆院総務委員会に出席した(前列奥から)NHK経営委員会の石原進委員長、森下俊三委員長代行、上田良一NHK会長(肩書はいずれも当時)=国会内で2019年11月19日、川田雅浩撮影 NHK経営委員会が9日開示した、2018年10月9日の経営委員会の委員のみの会の議事録の全文は以下の通り。 ◇ 経営委員会(委員のみの会) 平成30年10月9日 出席者【委員】石原委員長、森下代行、井伊委員、槍田委員、小林委員、佐藤委員、高橋委員、中島委員、長谷川委員、村田委員、渡辺委員 (石原委員長) 今後の議事運営についてガバナンス関連でありますが、事務局に配っていただいている日本郵政から経営委員会に送られた手紙についてであります。 これは「クローズアップ現代+」の番組に対する郵政からの申し入れです。3名です。日本郵政株式会社取締役社長、長門さん、それから日本郵便株式会社の横山社長、株式会社かんぽ生命保険の植平
是正措置前、合格ラインが男女で426点もの差があったケース。措置後はその差が87点に縮まった(東京都教委の内部資料より)=宮武祐希撮影 男女別に募集定員を設定している東京都立高校の入試で、女子の合格ラインが男子を大きく上回る状態が続いていることが毎日新聞が入手した都教育委員会の内部資料から判明した。過去には性別の枠を外した「合同定員制」への移行を模索した時期もあるが、実現していない。その背景に何があるのか探った。【大久保昂】 「(男女の合格ラインに)非常に大きな差が見られる。これで裁判になると耐えられない」 2019年6月6日、東京都庁で開かれた都立高校の入試制度を話し合う検討委員会で、委員の一人がこう訴えた。直近の入試の結果を分析した内部資料には、男女別定員制の是正措置を講じてもなお、女子の合格最低点が男子を100点以上も上回る高校があったことが記されていた。もし受験生から「不当な差別」
東京に駐在する外国メディア特派員の目に、私たちの社会はどう映っているのだろうか。韓国、フランス、米国、バングラデシュの個性豊かな記者たちがつづるコラム「私が思う日本」。第5回は朝鮮日報(韓国)の李河遠・国際部長が、日本の「浴場」について取り上げる。 朝鮮日報 李河遠国際部長 体力づくりのため東京で通ったフィットネスジムには脱衣室と入浴場がある。2018年に東京に赴任し、初めてこのジムに行った際、非常に戸惑った。男性たちが入浴する時間にタオル交換や掃除のために入ってくる従業員が、中年の女性だったからだ。私は運動後に入浴をするたび、女性従業員が入ってこないよう願ったが、その願いはしばしば打ち砕かれた。 私は1998年の北海道旅行での経験を思い出した。登別市の地獄谷にあるホテルの野外温泉につかり、疲れを取っていると、女性従業員が掃除をしに入ってきて腰を抜かした。あまりにも衝撃的で、その後も記…
参院内閣委員会で共産党の田村智子氏(右手前)の質問を聞く平井卓也デジタル改革担当相(左)=国会内で2021年4月20日午後4時57分、竹内幹撮影 文部科学省は20日の参院内閣委員会で、全国30の国立大学が2020年度、授業料の免除を申請した学生の個人情報を記録したファイルを外部に提供しようとしていたと明らかにした。デジタル庁創設や個人情報保護法改正を盛り込んだデジタル改革関連法案の審議の中で、共産党の田村智子参院議員の質問に答えた。大阪大や北海道大は障害者の家族の有無や生活保護の有無などを記録したファイルを提供対象にしており、個人情報保護のあり方が問われそうだ。【大場伸也、古川宗】 国が保有する個人情報については、省庁など国の機関が情報提供できるファイルなどの一覧を示し、民間からそれらを使った利活用の提案の応募があった場合、審査を経て提供する仕組みが17年度からスタートしている。 政府の個
中枢にある「政治は男のもの」 労働省(現厚生労働省)婦人少年局長として男女雇用均等法の制定(1985年成立、86年施行)に関わりました。役所にいた37年間のほとんどは女性の地位向上が仕事でした。その後も女性の政治参画をもっと進めなければおかしいという気持ちでやってきました。女性の政治参加を進めるWINWINの会、クオータ制を推進する会(Qの会)などで取り組んできました。 どうして女性の政治家が増えないのでしょうか。先日の森喜朗元首相の発言に端的に表れています。日本の政治を動かしているおじさまたちは要するに「政治は男のものだ、女がそんなものに口出さん方がいいんだ」と思っているのです。 考える前に、そういう考え方がはじめからインプットされているのです。そういう人がこの社会の中心にいらっしゃる、ということなんですよ。隅のほうにちょろちょろいるんじゃなくて、大事な中枢にそういうおじさまたちがでん、
「1、2、3、4……」。秒を読む記録係の声が静寂を破る。 1982年7月31日夜、東京・千駄ケ谷の将棋会館・特別対局室。第40期名人戦最終局の2日目、名人中原誠(73)に対峙(たいじ)した十段加藤一二三(81)は、持ち時間(9時間)を使い果たし、一手1分未満で指す「秒読み」に追い込まれていた。 50秒を過ぎると、記録係は「1」から秒を数え始め、「10」と言った瞬間、時間切れで負けとなる。加藤は勝つ手が見つからず、「進退窮まる」と思いながら、もう一度盤面を凝視した。 将棋の最高峰、名人位を争う七番勝負は4月に始まったが、決着がつかないまま真夏になった。第1局は双方の玉に詰みがなくなり、持将棋(引き分け)が成立。他に無勝負指し直しとする千日手も2回あり、3勝3敗で迎えた最終局は前代未聞の“第10局”となった。 カトリック信者の加藤は名人戦が始まる数日前、旧約聖書をめくっていると、戦いの心構えを
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