「その噂はあまりに聞き心地がよく……」――。フェイク・ニュースやポスト・トゥルースは、今に始まった現象ではない。第一次世界大戦下、西部戦線で起こったある出来事は、歴史家をフェイク拡散の社会的条件の省察へと向かわせ、歴史学そのものの歴史にある決定的な転回をもたらすことになる――。 戦場の歴史家 1914年10月18日、歴史家マルク・ブロックの姿は西部戦線の陣中にあった。鉄条網を隔てて機関銃が対峙する中、ぬかるんだ汚水に膝まで浸かりながら、ブロックは歩兵軍曹として塹壕戦を耐えていた。 不意に隣の兵士が敵の弾に斃れ、ブロックの肩に崩れ落ちた。ギユマンという名のその男は、ブロックが戦場で出会った親友の一人だった。その時、歴史家は生まれて初めて、生を失った人体の質量を両腕に感じた。 マルク・ブロック。現代歴史学に一大変革をもたらした「アナール学派」の創始者として今日まで名を残すこの歴史家は、28歳か