いやあ、すごい世界だなあ。おれはスポーツとはほとんど縁のない人生を送ってきたが、おれなどからは超人としか見えないような人々が、いったい全体、主観的にはどのような世界を感じているのかということには、たいへん興味がある。本書は、認知科学に於けるアフォーダンス理論のわが国での第一人者、佐々木正人氏が、常人の実感も想像も超えた独自の宇宙を体感している十六人のトップアスリートたちにインタビューを試みた刺激的な仕事である。トップアスリートが“環境”からどのような情報を受け取り、それをどう制御しているかを、主観的な言葉で表現するというのには、たとえば、才能に恵まれた数学者が、高次元空間の抽象的な幾何学を「これをこうすると当然こうなります」などと、あたかも日常的な三次元空間の物体を手に取って動かしているかのように語るのを聞いているみたいな不思議な感じがある。 興味本位で読みはじめたところが、あまりに面白い