前に書いたが、福田和也は2001年ころ、「天皇抜きのナショナリズム」と言い出したことがあって、それなら私に近いかもしれないと思ったのだが、その後西部邁に揶揄されるような場面もあり、保守論壇で評判が悪かったのか、引っ込めてしまった。 と思っていたら、『文學界』11月号の酒井信の福田追悼文に、「福田和也の思想的な特徴と言える『天皇抜きのナショナリズム』は、一般に誤解されているが、『権力』や『武力』と距離を置いた、『文化』に根差した『権威』の担い手としての『天子』のあり方を再評価するものである」とあって、それじゃあ島田雅彦と同じじゃないかと思って実に拍子抜けした。結局、福田という人は私にとっては有害な右翼でしかなかった。 (小谷野敦)