伊丹万作氏 戦争責任者の問題 青空文庫 (『映画春秋』創刊号・昭和二十一年八月) 今度の戦争で だまされていたという。 皆がみな 口を揃えて だまされていたという。 私の知っている範囲では おれがだましたのだ といった人間は まだ一人もいない。 いくら何でも、わずか一人や二人の智慧で 一億の人間がだませるわけのものではない。 だましていた人間の数は、 一般に考えられているよりもはるかに多かったにちがいないのである。 日本人全体が 夢中になつて互いに だましたり だまされたりしていたのだろうと思う。 ☆ ☆ ☆ 戦争中の 末端行政の現われ方や、 新聞報道の愚劣さや、ラジオのばかばかしさや、 さては、町会、隣組、警防団、婦人会といったような 民間の組織が いかに熱心に かつ自発的にだます側に協力していたかを 思い出してみれば すぐにわかることである。 ☆ ☆ ☆