「本当ですか」。昨年、徳島大学幹部との懇談の席で、私は香美(かがみ)祥二副学長に思わず聞き返した。「らしいですよ」。彼も人づてに知ったようだ。事実ならすごい話である。 徳島県で、少子化や若者の流出が止まらない。県人口は80万人台だった2007年からつるべ落としで、今年1月1日現在69万3084人。人の数では、私の家族が住む千葉県船橋市1市(約65万人)の規模感だ。 驚くのはここから。徳島県阿南市に本社や工場を置く大手メーカーの日亜化学工業(日亜)は、グループ会社も含め県内で従業員約9500人を擁する。県の総人口の1・4%、生産年齢人口の2・7%だ。ところが、従業員家族の出生数は県全体の10%だという。徳島の赤ん坊の10人に1人が「日亜の子」という計算だ。「子育て支援が手厚いようだ」と香美さんは言う。後日、半信半疑で日亜に問い合わせると、昨年1年間の出生数は…