いつも旅が終わらぬうちに次の旅のことを考え、隙あらば世界中の海や山に、都会や辺境に向かう著者。とは言っても、世界のどこに行っても自己変革が起こるわけではなく、それで人生が変わるわけでもない。それでも、一寸先の未来がわからないかぎり、旅はいつまでも面白い。現実の砂漠を求めて旅は続く。体験的紀行文学の世界へようこそ。 アルセニオスは突如として漆黒の表情を浮かべて静かに語り始めた。「先月に彼女は死んだんだ」と。予想もしない話に僕は「え...?」と言ったきり何も言えなくなる。 コーンロウスタイルの黒髪と褐色の肌を持つアルセニオスは、たった1時間前にハバナのホテル街の外れで出会ったばかりの青年だ。オレンジの花が描かれた黒いTシャツを着ている。もし彼に日本で出会っていたら、遊び人風情の若者だと思っただろう。そういう軽さが彼にはある。 アルセニオスの恋人はトーカという名前の日本人だった。4年前、彼女は友