そのとき僕に閃いたのは、珈琲そのものについてではなく、それ以外の珈琲についてなら、僕にも書けることはあるのではないか、ということだった。 『珈琲が呼ぶ』(光文社)のあとがきで片岡義男氏はそう書いている。350ページを超えるこの本には、全45篇の書き下ろしエッセイが収録されているが、先の言葉通り「珈琲そのもの」について書かれた本ではない。喫茶店のガイドでもない。 では何が書かれているのか。 たとえば冒頭に収録されている「『コーヒーでいいや』と言う人がいる」は、珈琲の注文の仕方についてのエッセイだ。片岡氏は「コーヒーがいい」と「コーヒーでいい」の違いを考える。そして、それを選んで特定した…という意味合いの強い「が」に対し、「で」は汎用的な広がりを持っており、「コーヒーでいいや、と言うときのコーヒーは日常そのものなのだ」と書く。日系3世として英語と親しみながら育ち、日本語・英語に関する評論も多い
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