「虚と実の間に引いて」とは、どういうことだろう。「虚」は嘘・虚構、「実」は真実・事実、という意味で、よく文学や芸事、芸術の真髄は「虚実皮膜の間にあり」などと言う。「皮膜」は皮膚と粘膜。転じて、区別できないほどの微妙な違いの喩え。会社勤めや日常生活の「実」の合間に、小説を読んだり、芸術に触れたり、映画を観たりの「虚」の時間が挟み込まれ、そのいずれとも断定しがたいところで「春の風邪」を「引いた」ということだろう。また「春」は季節の変化に体が順応するのに時間がかかり、体調を崩しやすいうえに、外出も自ずから増える季節である。体力や抵抗力がそれなりにあれば、たとえ「風邪」のウイルスを吸ったとしても「風邪」は「引かない」が、見かけは元気そうでも、日頃の不摂生がたたって抵抗力が落ちていれば、ウイルスに負けることになる。見かけの「実」と、中身の抵抗力という「虚」、その思いがけない「間隙」に「風邪」のウイル