およそ作家、文学者などと呼ばれるような人は漢字もよく知っていて、誤字を書くはずがない。ましてや明治の大文豪、夏目漱石ともなれば-。 と思いきや、何だ、かの漱石大先生もわれら凡愚とたいして変わらないではないかと、妙にうれしい気持ちにさせてくれる一書が『直筆で読む「坊っちやん」』(集英社)である。帯には「漱石先生『漢字検定』不合格ぞなもし!」の愉快なコピーが躍っている。 「坊っちやん」の直筆原稿を読むと、いきなり表の(1)~(4)(左は漱石の筆跡を本欄筆者が模写したもの、右は通用字体)のごとき見慣れない文字が続出する。もっとも、これらがどれも誤字かといえばそうとも断言できないようで、古い時代には俗字体として多くの人が使っていたものもあるらしい。正誤の判断は一筋縄ではいかない。漱石は筆名の「漱」も(5)のように書くことがあった。 『見えない文字と見える文字』(三省堂)の著者、佐藤栄作氏は、中国・