「ガソリンを探して歩いているんです」 3月14日朝、岩手県釜石市を車で移動していたときだった。老夫婦が自動車専用道路を歩いていた。男性(77)は目が不自由なのか杖(つえ)をつき、妻(70)に支えられながらゆっくりと足を進めていた。 事情を聴くと、車のガソリンがなくなってしまったという。震災直後、夫婦は高台に逃れたため津波の被害は避けることができたが、その後に火災が発生。「火がきて、車で逃げて逃げて、ようやく生きてきた」と妻が震えるように話した。 だが、頼みの綱だった車のガソリンが、震災3日目の13日には尽きた。「どこでガソリンを入れることができますか」と聞かれ、言葉に詰まった。 自分が最後に給油できたのは、約80キロ離れた同県一関市。歩ける距離にガソリンスタンドはなかった。老夫婦は「親戚のところに行きます」と再び歩き出した。 ガソリンの確保は取材の思わぬ壁になった。 13日早朝の一関市内。