今月の『文藝春秋』に、塩野七生氏がちょっとおもしろいエッセイを書いている。西洋史上最大の愚行の一つである十字軍は、熱狂した民衆が「神の声を聞いた」と信じて「民衆十字軍」でエルサレムをめざしたのが始まりだった。「民意」によって始まった戦争は無数にある。太平洋戦争も軍の上層部は確実に負けると知っていたが、朝日新聞を初めとする「民の声」に抗しきれなかったのだ。 「ウェブで政治を動かす」と信じている人々は、インターネットで幅広い民意をくみ上げれば政治はよくなると信じているようだが、現実は逆である。「民意」に迎合した泡沫野党は、横並びで「反原発・反増税・反TPP」をとなえ、財政危機にも社会保障にもふれない。多くの人々が政治に関心をもてばもつほど、このように長期的な問題を無視して大衆に迎合する衆愚政治が悪化してきた。 デモクラシーの元祖である古代アテネがペリクレスの死後、衆愚政治に陥ったのも、民衆が愚