オシドリ夫婦が壊れていく話。 「よくあることじゃん、現実にも」という方には、次の点を強調しておこう。この小説は、男性側から一方的に見た、「オシドリ夫婦が壊れていく話」なんだ。インテリであり作家である夫が告白する形式なのだが、その回想描写が正確であればあるほど、心理分析が的確であればあるほど、疑わしく思えてくる。なにが?なにもかもが。 わたしたちは愛し合っていた。この物語の主題は、わたしが依然として妻を愛し、妻を無批判に受けいれていたときに、どのようにしてエミーリアがわたしの欠点を見出し、あるいは見出したと思いこみ、わたしを批判し、ついにはわたしを愛さなくなったかを語ることである。 愛さなくなっただけでなく、夫のことを軽蔑し、静かな怒りまで抱くようになったという。夫にしてみれば、身に覚えもなく、やましいことも一切していない(と思っている)。なので、最初は戸惑い、次に怒り、ついには泣きつく。