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ブックマーク / dain.cocolog-nifty.com (220)

  • 『規則と意味のパラドックス』が超絶的に面白い

    今から奇妙なことを書くが、いったん真面目に受け取ってほしい。 68 + 57 = 5 ……(1) いろいろ前提はあるが、(1)は正しいという。前提を聞くと、屁理屈にしか見えない。だが、いったん理解すると、論理的に正しいことが導かれる。これまでわたしが受けてきた「正しさ」が揺らぐ。そこから、ウィトゲンシュタインとクリプキを出汁にして、言葉と意味に内在するパラドックスを解き明かす。狂っているのに信じられる感覚が、超絶的に面白い。 前提として、著者は生まれてこのかた、57より小さい数の計算だけしかしたことないという(普通もっと大きい数を計算しているだろうが、桁は議論の質ではない)。 そして「+」は和を示すプラスではなく、「クワス」という規則だと言い出す。クワスとはつまりこうだ。 x と y がどちらも57より小さいとき x クワス y = x と y の和 ……(2) 上記以外のとき x クワ

    『規則と意味のパラドックス』が超絶的に面白い
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    fijixfiji 2016/12/31
  • この本がスゴい!2016

    人生は短く、積読山は高い。 せめては「死ぬまでに読みたいリスト」を消化しようとするのだが、無駄なあがき。割り込み割り込みで順番がおかしくなる。読了した一冊に引きずられ、リストは何度も書き直される。 重要なのは、「あとで読む」は読まないこと。「あとで読む」つもりでリツイート・ブックマークしても読まないように、あとで読もうと思って読んだ試しはない。だから、チャンスは読もうと思ったそのときしかない。実際に手にとって、一頁でも目次でもいいから喰らいつく。勢いに任せて読みきることもあれば、質量と体力により泣く泣く中断するもある。かくして積読山は標高を増す。 ここでは、2016年に読んだうち、「これは!」というものを選んだ。ネットを通じて知り合った読書仲間がお薦めするが多く、それに応じてわたしのアンテナが変化するのが楽しい。わたし一人では、数学経済学歴史学、進化医学や認知科学の良を探し出せな

    この本がスゴい!2016
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    fijixfiji 2016/12/04
  • 不治の精神病者はガス室へ『夜と霧の隅で』

    きっかけはこのツイート。 人工透析のあり方を叩いていた人は、北杜夫の「夜と霧の隅で」も読んだことはないだろうな。ナチスが一番最初に大量殺戮したのは、ポーランド人でもユダヤ人でもなく、偉大なるドイツ帝国建設に役立たないとされた精神病者や障碍者だった事実。 — 半歩前進 (@hanpozenshin) 2016年9月27日 北杜夫といえば『どくとるマンボウ』や『楡家の人びと』しか読んでいなかったが、こんな重い話を書いていたなんて。しかも、これで芥川賞を受賞していたなんて。hanpozenshinさん、ありがとうございます。 そして、読んだら頭を殴られた。これは、治る見込みのない精神病患者を「無益な人間」として安楽死文では安死術)させる話。知能に障碍を持つ子どもが次々とバスに乗せられる冒頭は、映画そのもの。どこか空想上のディストピアではなく、第二次大戦時のドイツだ。ナチスは「遺伝病子孫防止法

    不治の精神病者はガス室へ『夜と霧の隅で』
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    fijixfiji 2016/10/08
  • わかりやすいデザインの教科書『ノンデザイナーズデザインブック 第4版』

    企画書、提案書、レポート、プレゼンのスライドなど、資料を作るあらゆる人にお薦めしたい名著『ノンデザイナーズデザインブック』の新版が出たので、あらためてお薦めする。 かつては「新人にお薦め」と言っていたが、新人でも知ってる人は知ってるし、お歳を召してもダメな人は一定数いる。なのでこれは、社会経験というよりも、「知っているか否か」だけなのだ。何を知っているかというと、「伝えたいことを明確で分かりやすくアレンジするには、どこに目を向ければいいか」である。もっと具体的に言うと、上司や指導者から「おまえの資料はイマイチだ、なぜならココが○○だから……」という試行錯誤したことがあるか否かだ。 この「変更前」「変更後」を比べるのは、ものすごく勉強になる。なぜなら、自分が作った「変更前」だけを眺めても、イマイチなのは分かるが、どこがイマイチなのか言葉にできない(指差せない)から。上司からダメ出しをらって

    わかりやすいデザインの教科書『ノンデザイナーズデザインブック 第4版』
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    fijixfiji 2016/09/04
  • 動いているコードに触るな『失われてゆく、我々の内なる細菌』

    プログラマの格言に、「動いているコードに触るな」がある。ビジネス環境の変化に合わせ、巨大なシステムを維持・改善していく上で、ほぼ原則といってもいい。 その意味はこうだ。長いこと複雑怪奇な状態なのに、なぜか正しく動いているプログラムに対し、不用意に手を入れると、思いもよらない不具合が出る(これをデグレードという)。一見冗長で、まわりくどく無駄なことやっているようなので、よかれと思って直す。すると、触った部分とは関係なさそうな別の場所・タイミングで、予想外の動作をする。結果、因果が特定できないまま解析が長引くことになる。きちんとリソースを充てて改善するならともかく、「なぜ上手く動いているか」が分からないまま改修するのは、非常にリスキーなのだ。 人体に常在し、ヒトと共進化してきた100兆もの細菌群を「マイクロバイオーム」と呼ぶ。このマイクロバイオームの多様性を描いた書を読むと、抗生物質の濫用に

    動いているコードに触るな『失われてゆく、我々の内なる細菌』
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    fijixfiji 2016/07/09
  • あなたの論文を学術書にする方法『学術書を書く』

    最初に答えを言うと、「良い編集者を持て」になる。 あなたの修論や博論は、どれほどユニークで面白かろうと、そのままにはならない。だから、潜在的な読者を見つけ、物理的なという形に仕上げ、配・流通に載せて、最終的に買って読んでもらうために、いくつかの準備や手直しが必要となる。その一番の方法が「良い編集者を持て」なのだが、そんなに簡単には見つからない。書は、こうした「ユニークで面白い論文」と「優れた学術書」の橋渡しをしている編集者が、どういう点に気をつけて、何をアドバイスしているかを、実際の出版事例を用いながら教えてくれる。 最も重要で、かつ全体を貫く勘所は、「誰が読むのか」だと言い切る。ふつうなら「何を書くのか」というテーマが大事ではないかと思うのだが、そのテーマですら、「誰が読むのか」によって揺らぐという。専門性の高い限定された研究対象を論じるのであれば、自ずとそれに興味をもつ読者も限

    あなたの論文を学術書にする方法『学術書を書く』
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    fijixfiji 2015/12/06
  • 科学+教養+エンタメ『お皿の上の生物学』

    料理材と人体で語る、教養科学エンターテイメント。 味、色、香り、温度など、「」にまつわる様々な要素が、生物学というフィルターを通じてクローズ・アップされる。調理しながら、料理べながら、「鍋の中で起きていること」「口腔内で起きていること」を分子レベルで解説してくれる。 「料理したものをべる」という日常的な活動の中に、感覚器官の精巧なメカニズムや、生き延びるための生体的なデザインが仕込まれていることを学ぶ。つくづく、料理とは実験なんだと痛感する。キッチンという、こんなに身近な場所で驚くべき科学体験ができることを知って、わくわくする。 たとえば、「味」は脳が決めているという。人の目の原色のような「原味」に応答する細胞の話を始める。味蕾の構造から始まって、味細胞がどのように反応するかを解説する。それだけでなく、「ミラクル・フルーツ」を使って脳を騙す実験を始める。 普通なら「酸っぱい」は

    科学+教養+エンタメ『お皿の上の生物学』
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    fijixfiji 2015/11/02
  • 貧乏人は早く死ねというのか『老後破産』

    まだ暑い盛り「お年寄り、クーラーつけず熱中症、救急搬送8000円」というニュースを目にした。 省エネなのか冷や水か、場合によっては生命維持装置でもあるスイッチを切るなんて。こまめにON・OFFしても、浮く電気代はわずかなものらしい。電気代ケチって病院代かかるなんてギャグかと思っていたら、事情は違うようだ。その差ですら惜しむような、さらには電気代すら払えない高齢者の現実を、書で知った。 書では、年金だけでギリギリの生活をしている状況を、「老後破産」と位置づけ、必要な医療も受けられず、十分な事もとれない高齢者たちの実態を報告する。元はNHKスペシャル『老人漂流社会 "老後破産"の現実』(2014.9.28放送)をベースに、番組では紹介しきれなかった事例も併せて書き直している。番組は見逃していたが、報われない老後の現実が痛々しく、他人事とは思えない。 たとえば、港区の築50年のアパートに住

    貧乏人は早く死ねというのか『老後破産』
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    fijixfiji 2015/11/02
  • 日仏科学医療対話「なぜエラーが医療事故を減らすのか」まとめ

    日仏科学医療対話を見てきたので、まとめる。 日仏の研究者や医師が分野を超えて相互交流をするシンポジウムで、在日フランス大使館が後援する「日仏イノベーション・イヤー」のプログラムの一環になる。 10/19 講演会と討論会 「医療安全を考える なぜエラーが医療事故を減らすのか」 10/23-24 日仏医学コロック 「脳と心 日仏クロストーク」 10/26-29 数理モデルとその応用に関する国際会議 「自己組織化」 11/6 講演会と討論会 「憎むのでもなく、許すのでもなく レジリエンスを語る」 わたしが見てきたのは、「医療安全を考える」講演会&討論会[日仏会館]。ローラン・ドゴース氏が基調講演を行った。氏は『なぜエラーが医療事故を減らすのか』の著者で、この[レビュー]が縁となって講演会のことを知らせてもらった(山田様ありがとうございます)。 講演は、「犯人探しだけでは医療は良くなるのか?」と

    日仏科学医療対話「なぜエラーが医療事故を減らすのか」まとめ
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    fijixfiji 2015/11/02
    「レジリエンスエンジニアリング」
  • 『なぜエラーが医療事故を減らすのか』はスゴ本

    「バグを排除しようと圧力をかけると、バグが報告されないプロジェクトになる」 この寸言は、よく忘れられる。シックス・シグマや日経ナントカに染まった管理者が、バグを目の敵にし、バグゼロの号令をかける。不具合が表面化すると、たまたまそこに詳しいだけの担当を犯人扱いし、なぜなぜ分析を強要し、ccメールや全体会議で晒し者にする。 なぜなぜ分析とは、「なぜそれが起きたのか?」「その原因の原因は?」と、原因を幾重にも掘り下げる手法のこと。5段階も遡及すると、たいてい「私の不注意でした」となり、対策は「意識を入れ替える」という小学校の学級目標になる。反面、もっと深刻な「仕様変更が電話口で伝えられていた」とか「アジャイルの名のもとにテストが省略されていた」などは放置される(なぜなら、「人」を原因にしたいから)。 こんな冗談みたいな施策を続けていくと、スケープゴートになった人はどんどん心をすり減らし、不具合の

    『なぜエラーが医療事故を減らすのか』はスゴ本
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    fijixfiji 2015/06/19
  • おめでたいアメリカ人『暴力の人類史』

    ここでは、書の「嘘」を暴く形でレビューするので、検証しながら読んでほしい。上下巻で1400頁というボリュームとスケールのでかさで、無批判に鵜呑みにしちゃう方が大勢いらっしゃる。これから手にする方は、そんな一員にならぬよう、レビューの後半に道標を残しておく。 著者は、スティーブン・ピンカー。前著『人間の性を考える』において、あらゆる暴力は環境要因によるという通念に反し、人間には生得的な設計特性として、暴力的なものが予め備わっていると論ずる。『暴力の人類史』では、そこからさらに発展させ、人類の歴史のまぎれもない傾向として、その暴力性が減少していると主張する。 もちろん、昨今の犯罪報道や戦争報道を見る限り、「暴力の減少」とは程遠い印象を受けることは、著者も承知している。20世紀は戦争の世紀であり、今なお内戦や弾圧が起きている。ネットのアンケート結果も然り。「前史時代と初期の国家社会」や「19

    おめでたいアメリカ人『暴力の人類史』
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    fijixfiji 2015/05/04
  • 駅を見る目が一変する『駅をデザインする』

    出口は黄色、入口は緑、丸の内線は赤い○。何気なく目にしている駅案内をデザインしたのが、この著者だ。 著者は、地下鉄の初乗り30円だった1972年から、駅の公共空間における問題解決のデザインを進めてきた。書は、その豊富な事例とともに、彼自身の熱い思いを受け取るだろう。 そのデザイン思想は、「サインとはメディアである」の一言にまとめられる。そして、このメディアを、「案内サイン」と「空間構成」の2つの方向性から説明する。すなわち、パブリックな空間における、提供者と利用者のコミュニケーションを図る際、「言葉」に相当するのが案内サインであり、「場面」に相当するのが空間構成だというのだ。 「案内サイン」の事例は、営団地下鉄(今は東京メトロ)での改善になる。まず、多様な形式の案内表示を統一し、シンプルな記号体系にまとめる。その上で、乗車系・降車系のそれぞれの利用者動線に沿った組み合わせで提示する「サイ

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    fijixfiji 2015/04/02
  • 糞システムにしないため、私ができること『はじめよう! 要件定義』

    「なぜ糞システムができあがるか?」の答えは、「一つ前の仕事をしている」に尽きる。 詳しくはリンク先を見てもらうとして、まとめるなら、自分の仕事のインプットが出来てないので、仕方なく前工程の仕事を代行しているうちに、リソースと気力がどんどん失われているからになる。これはプログラマに限らず、SEからPM、テスタや運用を入れても、当てはまる。「何をするのか」が決められない経営層が糞だから、あとはGIGOの法則(Garbage In, Garbage Out)に従う。 では、どうすればよいか? 「“何をするのか”を決めてもらう」という回答だと、連中と同じ肥溜めに落ちている。なぜなら奴らの“目標”とは、「売上を○%ストレッチする」とか「新規市場を開拓する」といった、現状を裏返した願望にすぎないから。売上アップ/新規開拓のために、どこに注力して、何にリソースを使い、そのために必要な道具(システム)を“

    糞システムにしないため、私ができること『はじめよう! 要件定義』
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    fijixfiji 2015/03/19
  • 結果から原因を探る数学『逆問題の考え方』

    わたしが知ってる数学は、“半分”でしかなかった。もう半分は、生々しく、荒々しい。同時に、数学の「正しさ」について強制的に考えさせられる。 わたしの知ってる数学は、「原因→結果」に従う。すなわち、原因を既知として法則に沿って計算する。万有引力から塩水の濃度まで、自然界を則るルールの理解や予測に役立つ。書によると、これは「順問題」と呼ぶ。 一方で、「結果→原因」を求める数学がある。現象の原因を観測結果から、逆のパスを通して決定・推定する問題だ。これが「逆問題」だ。逆問題を意識しないとき、「順問題」は、単に「問題」と呼ばれる。わたしが数学の全てだと信じてきた問題の大半は、これだったのだ。 たとえば、放射性物質で汚染された水を入れる貯水槽の問題がある。 【順問題】 ある貯水槽に放射性物質で汚染された水が流れ込み、混ぜ合わされ、流れ出ている。ある日、貯水槽の放射性物質濃度は、1Lあたり24.0ベ

    結果から原因を探る数学『逆問題の考え方』
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    fijixfiji 2015/02/16
  • 最高の入門書を一冊で『そうだったのか現代思想』

    きっかけは、このツイートに遡る。 色んなメンヘラを見てきて思うのは、あいつら圧倒的には読書量が足りねえってこと。メンヘラが一心不乱に悩んでることは1000年とか2000年前のメンヘラが既に悩み終わってることなんだよ — プリンツ=オイゲン (@_sexperia) 2014, 12月 16 メンヘラに限らないし、2000年は盛りすぎだ。だが言ってることは合っている。ええトシこいたオッサンなのに、中学生からの悩み「私とは誰か(何か)?」がまだ悩み終わっていないのは、圧倒的に足りないから。存在論と認識論から始まって、認知科学や科学哲学、数学から仏教まで、道草が愉しすぎて終わる気がしない。わたしの時間が終わるまで、知りたいことを知り尽くしたい。 その手引きとなる一冊がこれだ。網羅性はないし単純化バイアスが掛かっているが、現代思想のエッセンスを凝縮し、ひたすら噛み砕くのが良い。要所要所で出てくる概

    最高の入門書を一冊で『そうだったのか現代思想』
  • 無知ほど完全な幸福はない『続・百年の愚行』

    『百年の愚行』は、人類が20世紀に犯してきた愚行を、100枚の写真で見える化したもの。奇形化した魚、エイズの子、鮮やかなガス室、貧困の究極形、人類が成してきた悪行とツケ100年分は、絶句するほかない。 その続編が出た。これは、人類の狂気を見える化したもの。まだ21世紀のはじめなのに、911と311に挟まれてはみ出てきた、おぞましい恥部が写っている。戦争、弾圧、差別、暴力、貧困、環境破壊と核という切り口で、映像として残る人間の愚かさを、思う存分飲み下し、腹下せ(精神的な下痢になる)。どんなに言葉を尽くしても、圧倒的な狂気の前に、声を失うだろう。 最初の『百年の愚行』と比較すると、センセーショナルなどぎつさが、抑え気味になっている。新疆ウイグル自治区での弾圧は、もっと血みどろor火まみれな映像があるが、煽らないよう避けられている。代わりに、「シンジャンのパレスチナ化」という寄稿で、当局の迫害は

    無知ほど完全な幸福はない『続・百年の愚行』
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    fijixfiji 2015/01/26
  • 文の芸とはこういうもの『悪の引用句辞典』

    名言で時事問題を斬ったエッセイ。 タイトルからビアスを想起したが、寸言より引用量があり、ブックガイドの亜種として楽しめる。著者・鹿島茂のブンガク薀蓄が聞けると思いきや、むしろ(意図的に)離れ、社会批評したい対象から作品・警句を逆引きしたかのような選び方をしているのが凄い。 しかも、引き出しの多さ、ストックの量がすばらしい。このテにありがちな種は(ほとんど)使ってないはず。有名なの有名でない引用は、人が自分の裁量で切り出した証左になる。そして、有名な引用を意外な時事ネタにつなげる想像力は、創造力といっていい。筋金入りの書痴だからできる芸や。 たとえば、ポール・モラン『シャネル 人生を語る』。なぜモードの革命家という人生を選んだのか?という問いに対し、ココ・シャネルの答えを持ってくる。 自分の好きなものをつくるためではなかった。何よりもまず、自分が嫌なものを流行おくれにするためだった。わ

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    fijixfiji 2015/01/25
  • 人生が捗るトルストイ『戦争と平和』

    忘れっぽいので書いておく。わたしは死ぬし、あなたも死ぬ。なぜなら生きてるから。わたしの命は時である。時は、微分すると今になり、積分すると人生になるから。 では、この死ぬまでの時は、何のためにあるのか? それは、幸せになるため。人生は、それを使って幸せになるためにある。小説の最高傑作として掲げられるトルストイ『戦争と平和』には、この究極のライフハック「幸せになる方法」が書いてある。 いきなり答えを書く。「なぜ生きるのか」に衝き動かされ、自分探しに翻弄された主人公ピエールがたどり着いた結論だ。たえず探し求めていた「人生の目的」から解き放たれ、自分が完全に自由であることに気づく場面で、エピローグの直前にある。 ことばではなく、理屈ではなく、直接の感覚で、もうずっと前にばあやから聞かされていたことを悟ったのだ。それは、神さまはほらこれですよ、ここですよ、どこにでもいますよ、ということだった。 これ

    人生が捗るトルストイ『戦争と平和』
  • すべての小説好きにお薦め『荒涼館』

    小説を読むことは 沢山の人生を生きることだ。そこに描かれた人々と、それを読む自分を掛け合わせ、好悪の反応から"私"が何者であるかを知る。デフォルメされた人物や、神視点の作者を通じ、人生劇場の一員として、自分をそこに放つ。『荒涼館』には、小説のあらゆる面白い要素、醜い感情、愛すべき人情、哀切そのものが、人生の形で詰まっている。小説はフィクションだが、湧きあがる喜怒哀楽の涙は、ぜんぶ物だ。 同時に小説は、読むこと通じてのみ肉薄できる芸術である。絵のように一望したり、音楽料理のように「入ってくる」ものではない。こちらから読むという行為を通じ、その世界にもぐりこむことで「世界になる」経験だ。そして『荒涼館』は、読むことでしか堪能できない傑作である。重厚・巧妙に張り巡らされた伏線が引き絞られ、からめとられるとき、これまで通り過ぎてきた舞台や人物や事件やテーマでさえ(!)、実はそのシーンのために周

    すべての小説好きにお薦め『荒涼館』
  • 読むなら徹夜を覚悟して『その女アレックス』

    なんども瞠目するはずだから、明日の予定のない夜に。 この感覚を伝える、いちばんピッタリする言葉は、あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!『おれは奴の前で階段を登っていたと 思ったらいつのまにか降りていた』である。 物語に作者に登場人物に、投げ飛ばされる先がスゴい。これまで読んできたどのミステリとも異なり、いくつかの傑作を彷彿とさせ、かなりグロい描写と、とんでもない着地点が待っている。完徹保証の◎印。 誘拐・監禁されるアレックスと、犯人を追う警部の展開が、スピーディに交互するが、章を追う毎に全く違う様相と次元を帯びてくる。いわゆるミステリ王道の、読み進めることで新たな発見がある構成ではなく、見えていたはずのものが、これっぽっちも見えていなかったことに気づかされる。「私は今まで、何を読んできたのか?」と何度も自問するに違いない。これを、さかさ絵・騙し絵で評する人がいたが、言い得て妙やね。 ま

    読むなら徹夜を覚悟して『その女アレックス』