Back Index Next そうして黄金宮殿で暮らすようになってしばらくたった頃のことだ。 書き物机のうえにあった手紙の束にその名のあるのを見つけ、月の君は声をたてずに笑った。 手紙を隠す間もないことで、それはむろんこの部屋のほんとうの主が彼である証であり、またおれが自分の侍女たちを遠ざけられてしまったが故の不始末だった。 実をいうと、彼がここをおとなうことがない日にもその耳に何もかもが入っていることだろうと、おれはすっかり諦めていた。 月の君は、ルネのことを知っていた。 帝都学士院の最優等生になりながら故郷に帰った奇特な青年というのが、ルネのことを記憶するものたちの評価だった。 帝都で職を望めば宮廷であろうと太陽神殿の最高府であろうと高い地位を得られたはずなのに、そそくさと帰り支度をしたルネを笑うものたちの声だ。 しかしながら、月の君の評価はそれとはすこし違った。 かわいげのない少年