椿の海の記 (河出文庫) 作者: 石牟礼道子出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2013/04/05メディア: 文庫この商品を含むブログ (2件) を見る 春の花々があらかた散り敷いてしまうと、大地の深い匂いがむせてくる。海の香りとそれはせめぎあい、不知火海沿岸は朝あけの靄が立つ。朝陽が、そのような靄をこうこうと染めあげながらのぼり出すと、光の奥からやさしい海があらわれる。 大崎ケ鼻という岬の磯に向かってわたしは降りていた。やまももの木の根元や高い歯朶の間から、よく肥えたわらびが伸びている。クサギ菜の芽やタラの芽が光っている。ゆけどもゆけどもやわらかい紅色の、萌え出たばかりの樟の林の芳香が、朝のかげろうをつくり出す。 ビクトー・ベウフォートがそうだったかどうか覚えていないが、格闘家で「フェノメノン」の異名を持つ選手がいた。現象や事象を意味する言葉がどう転じてか驚異の才能などをあらわす