(『患者の話は医師にどう聞こえるのか――診察室のすれちがいを科学する』の第1章を以下でお読みになれます) 第1章 コミュニケーションはとれていたか 木曜日の夕方おそく、クリニックのドアから一歩外に足を踏みだしたとき、診察室の電話が鳴った。ウマール・アマドゥだった。「具合が悪いです」と言う。「オーフリ先生に診てもらう必要あります」 陽は沈み、クリニックは仕舞いじたくの最中だ。私も自分のファイルキャビネットに鍵をかけ、コンピューターの電源を落としていた。「今診てもらう必要あります」。アマドゥは繰り返した。強い西アフリカなまりを通しても、はっきりと声にいらだちが感じられた。 初診から数カ月のあいだに、50回は彼の電話を受けたと思う。気になることがあるとか用紙に記入してほしいとか処方箋を書いてほしいとかいつもなにかしら用事があり、ことはつねに急を要した。診察に現れるときは予約なしだ。いつでもその場
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