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ブックマーク / book.asahi.com (91)

  • 円城塔さん「怪談」インタビュー 「直訳」で浮かび上がる不思議の国・日本|好書好日

    円城塔さん=撮影・有村蓮 円城塔(えんじょう・とう)作家 1972年北海道生まれ。2007年「オブ・ザ・ベースボール」で文學界新人賞、12年「道化師の蝶」で芥川賞、17年に「文字渦」で川端康成文学賞などを受賞。著書に『Self-Reference ENGINE』『屍者の帝国』(伊藤計劃との共著)『シャッフル航法』『文字渦』『ゴジラ S.P』など。 ホーイチはヘイケ・グレイブヤードでビワを激しくプレイする ――円城さん訳の『怪談』は、日人に長年親しまれてきたラフカディオ・ハーンの名作に、「直訳」という手法で新たな光を当てた一冊です。まずは翻訳にいたる経緯を教えていただけますか。 たまたま原文で読んでみたんですよ。2013年にアメリカに行くことになって、無駄な抵抗として機内で英語でも読んでおこうかなと。なぜ『怪談』を選んだのかは忘れましたが、大した理由はなかったと思います。ところが読んでみた

    円城塔さん「怪談」インタビュー 「直訳」で浮かび上がる不思議の国・日本|好書好日
  • 沈黙が声を発し、空席が姿を見せる~本当の民主主義の息吹『黙々』|じんぶん堂

    記事:明石書店 『黙々――聞かれなかった声とともに歩く哲学』(高秉權著、影剛訳、明石書店) 書籍情報はこちら 現代の民主主義社会は、ある種の人々から声を奪うことで成立している。入所施設や精神科病院で長期収容されている障害者の存在は忘れられている。生活保護の受給者が声を上げるだけで、世間からバッシングを受ける。性被害者、難民、失業者たちの声は抑圧され、黙らされる。抑圧され、排除された者たちのほとんどは、無念の思いを抱き、沈黙するしかない。 世間からは見向きされないその無念、沈黙。 押しつけられ積もっているが吐き出されない思い。 書はまさにその無念や沈黙に耳を傾け、その声を聞くことで当の意味での民主主義の息吹を見出すだ。 「研究空間スユ+ノモ」と「ノドゥル障害者夜学」 著者高秉權(コ・ビョングォン)氏は、韓国では著名な在野の哲学者であり言論人だ。2000年代には「研究空間スユ+ノモ」と

    沈黙が声を発し、空席が姿を見せる~本当の民主主義の息吹『黙々』|じんぶん堂
    florentine
    florentine 2024/06/08
    “当時、街の階段、バス、地下鉄は障害者の移動をほとんど許さなかった。この社会を変えねばならなかった。障害者は学生になるためにはまず闘士にならねばならなかった。このノドゥル夜学に集う障害者たちは、街頭に
  • 神道関連の本、数十年かけてつくった圧倒的な品揃え:国学院大学生協書籍部|じんぶん堂

    記事:じんぶん堂企画室 国学院大学生協書籍部の齋藤倫さん 書籍情報はこちら 神道を専門に学べる大学の書籍部ならでは 現在、全国には約8万の神社があり、「八百万の神々」といわれるように、各地の神社には多彩な神々が祀られている。神道は開祖や教祖、教典を持たず、森羅万象あらゆるものに神が宿るという思想に基づいているが、宗教というよりは民衆信仰のようなところがある。神社は、神と人間を結ぶ祭祀が行われる場所であり、やがて個人の願いも受け入れる場になったといわれている。 日人は“無宗教”の人が多いといわれているものの、多くの人は正月に初詣に行くし、観光地に行けば地元で有名な神社に参拝する。また、近年は、参拝した証である「御朱印」を集める人や、神社を“パワースポット”ととらえて巡る人も増え、神道や神社への関心も高まっている。 そんな神道を専門に学べる大学は、国学院大学神道文化学部(渋谷区)と、皇学館大

    神道関連の本、数十年かけてつくった圧倒的な品揃え:国学院大学生協書籍部|じんぶん堂
  • 「僕の狂ったフェミ彼女」著者&訳者インタビュー フェミニズムは誰かを排除するためのものではない|好書好日

    就活を前に不安な僕を癒してくれた、愛らしい僕の彼女。毎日のようにベッタリで、付き合って1周年を迎えた。そんなとき僕は、1年間の海外インターンシップに行くことに。遠距離は不安だけど、彼女なら安心だ、待っていてくれるはず――。しかし、出国当日。空港にいたのは、涙ぐむ彼女を抱きしめる僕ではなく、別れのメールをもらってメンタルが崩壊した僕だった。 そんな初恋を引きずりながら 大企業に就職し3年目を迎えた「僕」ことスンジュン。周囲はほとんど結婚して、「まだ独身なの?」とからかわれることも多い。結婚する女性を選ぶだけなのに、なかなか結婚への意欲がわかない。そんなある日、初恋の彼女と出くわした! 心がまた動き出す……ところが、彼女はこともあろうにフェミニストになっていた!(イースト・プレス公式サイトより) ●『僕の狂ったフェミ彼女』試し読みはこちら 年を重ねるにつれて大きくなっていった違和感 ――韓国

    「僕の狂ったフェミ彼女」著者&訳者インタビュー フェミニズムは誰かを排除するためのものではない|好書好日
    florentine
    florentine 2023/11/27
    “社会の刷り込みによって無自覚のまま差別してしまうケースは多いですし、私のように認識が浅いがゆえに差別に加担してしまうこともあります。気づき、考え、話し、正しい知識を得ていくことが大切”
  • 二人の国民的作家は、ともに美術記者だった――井上靖と司馬遼太郎 異なる「美」へのまなざし|じんぶん堂

    記事:平凡社 井上は大阪毎日新聞、司馬は産経新聞で記者をつとめ、美術や宗教欄を担当した Photo by Jan Kahánek on Unsplash 書籍情報はこちら 新聞記者時代を振り返って 「結局、新聞記者を何年やっておられた?」 「たしか13年だったと思います」 「私と大体、同じくらいですね」 「それで最後は、美術を受持ちました」 「似てますねえ。美術、宗教というのを受持つのが、将来、ものを書くには一番いいですね」 「暇ですしねえ。そうですか、13年でいらっしゃいましたか」 「ええ、やはり13、4年でしょうか」 「サンデー毎日 臨時増刊」(1972年4月)に掲載された井上靖と司馬遼太郎の対談「新聞記者と作家」の冒頭である。「美術、宗教というのを受持つのが、将来、ものを書くには一番いい」と話しているのが井上靖で、「暇ですしねえ」と司馬遼太郎が応じている、そのちぐはぐ感がなんだかおか

    二人の国民的作家は、ともに美術記者だった――井上靖と司馬遼太郎 異なる「美」へのまなざし|じんぶん堂
  • 女性を「商品化」し、暴力から利益を生む遊興産業……『男たちの部屋――韓国の「遊興店」とホモソーシャルな欲望』|じんぶん堂

    じんぶん堂TOP 歴史・社会 女性を「商品化」し、暴力から利益を生む遊興産業……『男たちの部屋――韓国の「遊興店」とホモソーシャルな欲望』 記事:平凡社 韓国では遊興店は合法であるものの、女性従事者に対する男性客や経営者からのハラスメントや暴力、違法性売買の斡旋が頻繁に行われている。 Photo by Andrea De Santis on Unsplash 書籍情報はこちら 2023年6月21日刊『男たちの部屋――韓国の「遊興店」とホモソーシャルな欲望』(ファン・ユナ著、森田智惠訳、平凡社) バーニングサン事件、n番部屋事件……だけではない 書は2018年にクラブ・バーニングサンで起きた事件から始まる。2018年のバーニングサン事件(*1)と2020年のn番部屋事件(*2)は文字通り、韓国を「激震させた」。私もまたこの事件に接し、動揺すると同時に疑問を抱えるようになった。 「なぜバーニ

    女性を「商品化」し、暴力から利益を生む遊興産業……『男たちの部屋――韓国の「遊興店」とホモソーシャルな欲望』|じんぶん堂
  • コロナ禍で広がる生活困窮者への支援と、「公助」の提言。『貧困パンデミック』|じんぶん堂

    記事:明石書店 『貧困パンデミック――寝ている「公助」を叩き起こす』(明石書店) 書籍情報はこちら 書は、2020年春から一年余りの間に私がウェブ媒体で発表した記事を中心に構成されている。生活困窮者支援の現場で起こっていることを追体験していただくため、各記事は基的に発表時のまま収録し、状況の変化があった事柄については各記事の「追記」で補足の説明をしている。 「年越し大人堂」とコロナ禍の広がり 中国の保健衛生当局が、湖北省武漢市で原因不明のウイルス性肺炎の発症が相次いでいるという報告をWHO(世界保健機関)に行ったのは、2019年12月31日のことである。このニュースは日でも報道されたが、年末だったこともあり、その時点で大きな注目を集めることはなかった。 同じ日、私は東京・新宿の貸しスペースで開催された「年越し大人堂」で、「今夜から泊まるところがない」という若者の相談にのっていた。

    コロナ禍で広がる生活困窮者への支援と、「公助」の提言。『貧困パンデミック』|じんぶん堂
  • 「女たちの沈黙」書評 男社会を疑わぬ古典を語り直す|好書好日

    「女たちの沈黙」 [著]パット・バーカー 「怒りを歌え、女神よ」。『イリアス』は、アキレウスの怒りから語り始める。総大将アガメムノンが、彼の「戦利品」を召し上げたことが、怒りの原因だった。 「戦利品」とは掠奪(りゃくだつ)した女性のこと。トロフィーのように見せびらかす武功の証しであり、性奴隷であった。 ブッカー賞作家のこの小説は、アキレウスの「戦利品」となった19歳のブリセイスの視点から、名高いトロイア戦争の物語を語り直す。男たちの争いと友情を描いた『イリアス』が沈黙する、女たちをめぐる語りがここに補われる。それは、殺される側、性奴隷とされる側のストーリーだ。 ヨーロッパ文化の礎として位置づけられてきたアキレウスの物語は、虐殺と性暴力に根ざしている。読者は嫌でもそう気づかされる。こうした古典を語り継いできた西洋世界は、感覚が麻痺(まひ)しているのではないか、とも考えさせられる。 キャンセル

    「女たちの沈黙」書評 男社会を疑わぬ古典を語り直す|好書好日
  • 幻の奇書「サラゴサ手稿」訳者・畑浩一郎さんインタビュー 著者も作品も数奇な運命、長編小説を全訳|好書好日

    「サラゴサ手稿」訳者の畑浩一郎さん。手にするのは原著のペーパーバック版=東京都渋谷区 作者はポーランドの貴族ヤン・ポトツキ(1761~1815)。現在のウクライナで生まれ歴史家として活動する傍ら、ヨーロッパの共通語だったフランス語で長大な物語を書いた。物語は18世紀の終わりに書き始められたが、その全体像が定かになったのは21世紀に入ってからだ。 「サラゴサ手稿」はスペインの山中をさまよう若き騎士アルフォンソを主人公にした奇想天外な物語だ。彼が行く先々で出会う人物たちの語りが次々と挿入されていく「枠物語」の形式で、突如として現れる美しき姉妹がほのめかす彼ら一族の秘密が、大きな謎として読者を引き付ける。 枠物語の系譜としては、「千一夜物語」やボッカッチョの「デカメロン」に連なるが、「サラゴサ手稿」の特徴は「物語のなかで別の物語が語られて、そのなかでまた別の物語が語られる」という階層状の構成にあ

    幻の奇書「サラゴサ手稿」訳者・畑浩一郎さんインタビュー 著者も作品も数奇な運命、長編小説を全訳|好書好日
  • 三木那由他「言葉の展望台」 日常のレジスタンスに効く哲学 |好書好日

    哲学は、文字どおり実学だと感じる一冊だ。三木那由他(なゆた)著『言葉の展望台』は、気鋭の言語哲学者が日々の会話で生じた小さな疑問や、メディア上での言葉の使われ方に対する違和感に立ち止まり、自身の専門分野の知識を応用していくエッセー集。日常のレジスタンスに有効な知見に満ちている。 言葉によるコミュニケーションは、人と人が理解し合い、愛や友情を紡ぐために必要不可欠なもの。だが、アンフェアで不均衡な社会構造がそこに介在するとき、支配や侮蔑の舞台ともなりえる。 例えば、コミュニケーション的暴力の典型だと著者が考えるのが「意味の占有」だ。上司と部下、男と女、多数派と性的マイノリティーといった、会話外の社会的力学における強者が、弱者の発言の意味を独り占めし、一方的に決めつけてしまうような状況だ。著者は、「女が、外国籍の者が、非異性愛者が、トランスジェンダーが、そうでない者たちの一部から『不合理なことを

    三木那由他「言葉の展望台」 日常のレジスタンスに効く哲学 |好書好日
    florentine
    florentine 2022/09/19
    “コミュニケーション的暴力の典型だと著者が考えるのが「意味の占有」だ。上司と部下、男と女、多数派と性的マイノリティーといった、会話外の社会的力学における強者が、弱者の発言の意味を独り占め”
  • 三木那由他さん「言葉の展望台」インタビュー マイノリティの言葉に触れて、差別思想に抗って|好書好日

    三木那由他さん 三木那由他(みき・なゆた) 1985年、神奈川県生まれ。2013年、京都大学大学院文学研究科博士課程指導認定退学。15年、博士(文学)。現在、大阪大学大学院人文学研究科講師。著書に『話し手の意味の心理性と公共性』『グライス 理性の哲学』『会話を哲学する コミュニケーションとマニピュレーション』、共著に『シリーズ新・心の哲学1 認知篇』、共訳書にブランダム『プラグマティズムはどこから来て、どこへ行くのか』がある。 コミュニケーションは約束ごと? ――書『言葉の展望台』と光文社新書『会話を哲学する』と、同時期に2冊刊行されて、どちらも話題になっています。三木さんはどういう研究をしているのでしょうか? 言葉とコミュニケーションの研究と言っているんですけど、ある人とある人がコミュニケーションするとは一体どういうことなのか。特に話し手が発話をすることによって、何らかのことを意味する

    三木那由他さん「言葉の展望台」インタビュー マイノリティの言葉に触れて、差別思想に抗って|好書好日
  • 優生保護法とは何か――荒井裕樹『障害者差別を問いなおす』|じんぶん堂

    記事:筑摩書房 事件があった「津久井やまゆり園」に警察・消防車両や大勢の報道陣が集まった=2016年7月26日、相模原市緑区(朝日新聞社) 書籍情報はこちら 2018年から19年にかけて、世間から忘れられかけていた一つの法律がメディアを賑わせました。優生保護法です。 この法律は1948年に制定され、1996年まで存在し、現在は母体保護法という法律に改定されています。この優生保護法とは、どのような問題をはらんでいたのでしょうか。まずはその点を確認しましょう。 長年、同法の問題を指摘し続けてきた団体「SOSHIREN 女(わたし)のからだから」のホームページには、次のような説明があります。 優生保護法、、、、、は、2つの目的をもった法律でした。一つは「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」 ―― 病気や障害をもつ子どもが生まれてこないようにする、という意味。もう一つは「母性の生命健康を保

    優生保護法とは何か――荒井裕樹『障害者差別を問いなおす』|じんぶん堂
    florentine
    florentine 2022/09/10
    “こうした障害者たちの声が、長らく「償われるべき被害」として受け止められてこなかったことの意味を、私たちは考えなければなりません。”
  • 「誰も断らない」書評 「第二の安全網」中立的な筆致で|好書好日

    「誰も断らない」 [著]篠原匡 生活保護制度と並んで、生活困窮者自立支援制度という制度があるのはご存じだろうか。民主党政権末期から具体化された、「第二のセーフティネット」と呼ばれる社会保障制度のことである。一挙手一投足が管理される生活保護制度と異なり、被支援者人の努力や気持ちを最大限尊重する。行政や支援者は人に寄り添い、必要ならば助けるという姿勢が特徴だ。この制度の、ある基礎自治体における運用実態を取材したのが書である。 あまたの類書中、書最大の特徴は、日経BP社で長く活躍してきた編集者が執筆している点だ。書で紹介される座間市や滋賀県野洲市の例は、リーディングケースとして業界でこそ名高いが、元ビジネス誌の編集者の視野に入ってくるほどフツウになったとは評者には新鮮だった。 もともと社会福祉に携わる人びとは限られる傾向がある。現場が一般社会から隔てられてしまう危機感からか、ルポルター

    「誰も断らない」書評 「第二の安全網」中立的な筆致で|好書好日
  • 「まとまらない言葉を生きる」荒井裕樹さんインタビュー こぼれた表現にこそ宿る力 |好書好日

    荒井裕樹さん 降り積もり浸透し 新しい思考開く 荒井さんは障害者やハンセン病患者、女性らマイノリティーの自己表現を研究してきた。『障害者差別を問いなおす』など7冊の単著があるが、エッセーは初めて。 執筆の出発点は、近年ますます日社会をむしばむ「言葉の壊れ」への危機感にあったという。SNS上などで社会的に弱い立場の人に向けられる憎悪。重みと責任を失った政治家の発言。そんな息苦しい言葉があふれる時代に、「悔しさ」を感じていた。 言葉には来、もっと力があるはずなのだ。魂や尊厳や優しさにまつわるような。でも短くきれいにまとめようとすると、スルリと落ちてしまうものがある。 「それが何かを考えたいと思いました。長年関わってきた人との語らい、心に響いたの一節、日常の出来事を手がかりに、自分の中の『もやもやした思い』を書いていった。これを必要とする人っているのかな、と自問しながら」 全18話に登場す

    「まとまらない言葉を生きる」荒井裕樹さんインタビュー こぼれた表現にこそ宿る力 |好書好日
    florentine
    florentine 2022/08/02
    “言葉には本来、もっと力があるはずなのだ。魂や尊厳や優しさにまつわるような。でも短くきれいにまとめようとすると、スルリと落ちてしまうものがある。”
  • 「差別はたいてい悪意のない人がする」著者インタビュー 無自覚に他人を踏みつけないためにできること|好書好日

    キム・ジヘ 韓国・江陵原州大学校多文化学科教授(マイノリティ、人権、差別論)。移民、セクシュアル・マイノリティ、子ども・若者、ホームレスなどさまざまな差別問題に関心を持ち、当事者へのリサーチや政策提言に携わっている。ソウル特別市立児童相談治療センター、韓国憲法裁判所などの公的機関にも勤務経験を持っている。 平等はみんなのためのもの ――このでは韓国における女性やマイノリティ、外国人労働者や障がい者に対する「普通の人がしてしまう差別」について触れています。何がきっかけで、にまとめようと思ったのですか? 韓国では女性や移住労働者の存在感が社会に目に見える形で増してきて、「彼らに対する差別をなくしていかないと」いう声が高まりつつありました。一方でマイノリティの権利を保障しろという意見が目立ち始めると、「マジョリティに対する逆差別だ」という主張も大きくなりました。 集団同士の対立に発展していく

    「差別はたいてい悪意のない人がする」著者インタビュー 無自覚に他人を踏みつけないためにできること|好書好日
  • 惣領冬実「チェーザレ」 ルネサンスの英雄、華麗な美術絵巻|好書好日

    惣領(そうりょう)冬実の『チェーザレ』が完結しました。16年かけて全13巻。厳密な時代考証と精緻(せいち)な作画のために、最後の数巻は3、4年に1巻というスローペースになっていました。作者は創造のエネルギーを投入し尽くしてここで完了ということにしたのでしょう。それにしても凄(すさ)まじい力業です。 主人公はイタリア・ルネサンスの政治的・軍事的英雄であるチェーザレ・ボルジア。私がボルジアの名前を知ったのは、映画「第三の男」を見た中学生のときで、ラスト近くでオーソン・ウェルズが、ルネサンスの影の部分である戦争と恐怖と流血と殺人をボルジア家の政治の特徴だといっていました。それで私はボルジア家を代表するチェーザレに興味をもったのです。妹の絶世の美女ルクレツィアとの近親相姦(そうかん)の挿話にも想像力を刺激されました。 しかし、惣領冬実版のチェーザレには、そんな安っぽい悪魔のようなイメージはまったく

    惣領冬実「チェーザレ」 ルネサンスの英雄、華麗な美術絵巻|好書好日
  • 「ダンテ論」書評 読者も解釈して作品に参加せよ|好書好日

    ISBN: 9784791773855 発売⽇: 2021/11/26 サイズ: 20cm/353,36p 「ダンテ論」 [著]原基晶 このの魅力は、要約だけでは伝わらないはずだ。 イタリア国民文学の源流に輝くダンテの『神曲』。こうした評価は実は新しいという。19世紀、イタリアに近代国家が誕生すると、国民文学や国語を求める政治的思惑のもと、そんな評価ができた。作者ダンテは、作品の主人公と同一視されて英雄扱いされた。 書の著者は、現在まで続くこうした評価を、歴史学や文献学の成果をふまえて退ける。そして14世紀の自然哲学や商業革命の文脈のなかで『神曲』を読み解く。こう要約できよう。 私たちが当然とみなす考え方は、いつ、どのようにできたか。この点を解き明かして、脱神話化する手法が鮮やかだ。だが、「創られた伝統」を越えてという要約だけでは、書の凄(すご)みは語り尽くせない。例えば第3章。『神

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  • 「病んだ言葉 癒やす言葉 生きる言葉」阿部公彦さんインタビュー 言葉の「弱さ」、今こそ大事なとき|好書好日

    阿部公彦さん=家老芳美撮影 阿部公彦(あべ・まさひこ) 1966年、神奈川県生まれ。英文学者。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。ケンブリッジ大学大学院で博士号取得。現在、東京大学大学院人文社会系研究科教授。専門は近現代の英米小説や英米詩だが、英・米の境界や小説・詩の境界にこだわることなく、日の詩や小説も含みながら、個別のテーマを設定して研究している。主な著書に『文学を〈凝視する〉』(岩波書店)、『英文学教授が教えたがる名作の英語』(文藝春秋)など、訳書にマラマッド『魔法の樽 他十二篇』、オコナー『フランク・オコナー短篇集』(いずれも岩波文庫)などがある。 強い言葉がもてはやされる世の中で ――書名の「病んだ言葉」とはどういうことでしょう? 最近、言葉の強さばかりが注目されていると思いました。言葉の上手な使い手、インパクトのあることを言う人、相手を論破する人など、言葉の「強面さ」み

    「病んだ言葉 癒やす言葉 生きる言葉」阿部公彦さんインタビュー 言葉の「弱さ」、今こそ大事なとき|好書好日
    florentine
    florentine 2021/12/29
    自分が「難病疑い」という状態にあって、医学のワカラナサに戸惑いながら『診断の社会学』を読んで「語り」に出会ったりして、社会から逸脱していく自身のよりどころとして言葉に縋る、みたいなのもあったりする
  • 老年期と思春期に違いはない 小池真理子|好書好日

    夫に残された時間がわずかになったと知り、或る晩、私は彼の高校時代からの友人A氏に電話をかけた。 壮年期はそれぞれ仕事に全力投球し、疎遠になったり、近づき合ったり。男同士、互いに妙な自意識の火花を散らしつつ、こまめに連絡することも稀だったが、いざとなれば誰よりも理屈抜きで信頼し合える。二人はそんな間柄だった。 A氏はむろん、夫の病気の詳細を知っていたが、まさかそれほどのことになっているとは思っていなかったらしい。私の報告を聞いたとたん、電話口で絶句した。声を押し殺して泣き始めた。冬の夜のしじまの中、私たちは互いに言葉を失ったまま、しばし、むせび泣いた。 夫と同年齢で、昨年古希を迎えたA氏と、先日、久しぶりに電話で話した。 長く生きてきて、嵐のような出来事の数々をくぐり抜け、突っ走り、おかげで厄介な持病も抱えこんだ。しかし、別に後悔はしていない。とりたてて趣味もない仕事人間だったが、総じてよき

    老年期と思春期に違いはない 小池真理子|好書好日
  • 花を頭に生けたロココの貴婦人の努力――衣裳から覗く服飾史|じんぶん堂

    記事:平凡社 フランソワ・ブーシェ画《ポンパドゥール夫人》(部分)/『名画のドレス』「エシェル」の項目より 書籍情報はこちら 頭やドレスに花瓶を隠して社交場へ ロココの貴婦人たちに流行したおしゃれは、髪やドレスを花々で飾ること。生の花がしおれるのを防ぐために、驚きの工夫がされていた。 ジャン=マルク・ナティエ画《マダム・ソフィ・ド・フランス》(フランス国王ルイ15世の娘)/『名画のドレス』「花飾り」の項目より このような生の新鮮な花々を使って衣裳に飾る場合には、当然新鮮であることが重要であり、宮中行事などの最中に花が萎れてしまっては興醒めだから、驚くような工夫が施されていた。生花の花飾りにきちんと水が供給されるように、小さなボトルに水がたくわえられて、衣裳や帽子などの花飾りのところどころに、それらのボトルが巧妙に隠されていたというのである。 「おしゃれは我慢」というが、ボトルの水が無くなっ

    花を頭に生けたロココの貴婦人の努力――衣裳から覗く服飾史|じんぶん堂