ドリアーノ・スリス(73)が初めて来日したのは、1974年のことだ。故郷イタリア・ローマで知り合って結婚した妻の里帰りで、福岡市にやってきた。 「いつまでいるか、何をするか、先のことは考えていなかった」 しかし、ある日、ラジオから流れてきた音色が運命を変えた。筑前琵琶だった。生まれて初めて耳にする旋律に、心を揺さぶられた。その後、日本で唯一の筑前琵琶の修復師として生きることになる。 ◆ ◆ 第2次世界大戦の終結から2年後、地中海に浮かぶサルデーニャ島で、7人きょうだいの末っ子として生まれた。古代の巨石遺跡群や独特の民族文化で知られる島で、両親の故郷だった。生後間もなく一家でローマに移ったので記憶はないが、オリジナリティーを大切にする文化が、自分の生き方に「影響してるかも」と思うこともある。 16歳から国立の音楽学校でクラシックギターを学んだ。4年目のある日、人形劇団の友人から人形遣い