映画の魅力は細部に宿る。どうせ見るならより多くの発見を引き出し、よりお得に楽しみたい。「仕事と人生に効く 教養としての映画」(PHP研究所)の著者、映画研究者=批評家の伊藤弘了さんが、作品の隅々に目を凝らし、耳を澄ませて、その魅力を「よくばり」に読み解きます。 前編から続く *編集部注・物語の結末まで明かしています。 キャンベルの「鯨の胎内」神話学者のジョーゼフ・キャンベルは、主人公が異界へと越境する際に通る空間を「鯨の胎内」と名づけている。なぜ「鯨」なのかと思われるかもしれないが、これはあくまで比喩的なもので、必ずしも鯨でなくともよい。たとえば「天気の子」では、帆高が雲の上の世界を訪れた際に、雲のなかに巨大な魚の姿を見ている【図3】。 【図3】「天気の子」新海誠監督、2019年(DVD、東宝、2020年) その姿は魚のようでもあり、龍のようでもある。「君の名は。」では彗星が龍のように描か