第二次世界大戦で日本に原爆が投下されたとき、アインシュタインは悲痛の叫び声を上げたそうだ。自ら発見したエネルギーの法則で、大勢の人間が命を落とした。「E=mc²」の公式がなければ、原子力爆弾は存在しなかったかもしれない。アインシュタインの背中には、巨大なジレンマがのしかかったはずだ。 科学者は純粋に科学を探求する。自然の中に隠れている法則を見つけて、可能な限りシンプルな公式で世界の仕組みを解き明かそうとする。たとえそこに探究心以外の他意があっても、殺意のある科学者はいないはずだ。 バリー・パーカーの『戦争の物理学』は、物理と兵器の関係を紐解く本だが、物理学者のジレンマにも触れている。 兵器の進歩。それはつまるところ物理学の進歩だ。慣性や加速度、弾道や重力など、自然の物理現象が解明すればするほど、兵器の破壊力は増し、精度は高くなる。大砲の命中精度を高めるために弾道学の研究が進み、レーダーで敵