取材の準備は念入りにした。取材相手の格を考えれば当然だ。それにおそらく日本では、普段の取材でもそれくらいの準備が当たり前であるに違いない。 お会いできて光栄ですといった挨拶の言葉も準備し、両手で名刺を差し出す所作も、何度も練習して動きを確認した。手土産も持参することにした。選んだのはマカロンの詰め合わせである。取材日が、取材相手のちょうど32歳の誕生日だったのだ。 大野将平の名を聞いても、フランスの凡俗にはピンとこないかもしれない。だが、柔道界ではそうではない。つねに柔道の最新情報を追っているフランス人のある知人に言わせれば、大野は「地上に降臨した神」だという。 私がその大野と一対一でインタビューできると知ると、その知人は嫉妬心を抑えきれなくなっていた。大野を形容する言葉なら、ほかにも「柔道のフェデラー」、「畳の上のメッシ」、「ラスト・サムライ」など多々ある。 「日本に毎世代、出てくる宇宙