2012年9月1日、葛西臨海水族館。私は同水族館より82日間の逃走ののちに捕獲されたフンボルトペンギン「さざなみ」、旧名337号との対話を試みた。以下に彼の語ったことを掲載するが、あくまで文責は私にある。なお、本件に関していっさい葛西臨海水族館は関与していないことを明記しておく。 ☆★☆ 「……おれになにか用があるのか? 話を聞きたいだと?……おおむね、セリーヌの『夜の果てへの旅』でも読んだんだろう。このところそんな奴らばかりだ。……しかし、そもそもおれがその脱走ペンギンだっていう証拠がどこにあるっていうんだ? ほかのペンギンと言い争うペンギンなんて、ほかにもいくらでもいるだろう? ……なるほど、水族館の連中がおれを見分けるために識別用リングをとっぱらってしまってことは知ってるさ……。 「……けれどあんた、おれは絶対に半身を見せないぜ。もう片方の羽根にはリングがついてるかもしれないじゃない