掲題の通りなのだが、私の祖父はヒゲを剃ってから床屋に行く人だった。私にはそれが不思議で仕方なかった。 ヒゲが濃い祖父ではあったが、床屋はどんなに濃いヒゲであろうがツルツルに剃ってくれるのだから、わざわざ自分で剃ってから行く必要なんてない。 それはまるでクリーニングに出すYシャツを一旦洗濯機で洗ってから出す行動と同じに見えた。 祖父はとうの昔に亡くなっている。大正生まれで戦時中は兵隊として満州に送り込まれていた世代だ。 性格は几帳面で、木彫りを趣味としており、幼少の頃はとても趣味の範疇とは思えないその木彫りの丁寧な仕事ぶりを見て驚いた記憶がある。 そんな祖父に「ヒゲを剃ってから床屋に行く」という習慣があったことを令和3年に突如として思い起こしてしまったのは、私が床屋に行こうとしていたある日の朝に、ついついいつもの流れで普通にヒゲを剃ってしまったからである。 「今日床屋に行くのに勿体ないことし
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