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  • 『カラスは飼えるか』ほかの鳥だって可愛いよん。 - HONZ

    「鳥にハズレなし」というのが私の持論である。鳥の生態が興味深いのは確かだが、それ以上に鳥類学者にはユニークな人が多い。 『鳥類学者無謀にも恐竜を語る』(新潮文庫)の川上和人、『ダチョウの卵で、人類を救います!』(小学館)の塚康浩など真摯な研究者が真面目に書いたほど面白い。 書の著者はカラス研究者。『カラスの教科書』(雷鳥社、のちに講談社文庫)の単行が上梓された時には、まず厚さに驚愕し、一読して、そのカラス愛の熱さにクラクラした。いつの間にかカラスは可愛いかも、と思えるようになるから不思議だ。 都市部ではどこでも見かけ、ゴミを散らかして嫌われるカラスだが、当に嫌な奴なんだろうか。飼ったらかわいいんじゃないか?べたら美味しいんじゃないか?そんな疑問に書でも丁寧に答えてくれる。ただし、そんなことを真剣に考える人は少ないと思うけれど。 カラスが好きで研究している著者は、当然のように

    『カラスは飼えるか』ほかの鳥だって可愛いよん。 - HONZ
  • 『巧拙無二 近代職人の道徳と美意識』武術家と刃物研究家との”真剣”対談 - HONZ

    ※ ネットではhontoで取り扱っています。 真剣での立ち合いを見るような、ヒリヒリと緊張感漂う対談である。 一人は武術家甲野善紀。日古来の武術を伝書と技の両面から独自に研究している。もう一人は土田昇。東京の三軒茶屋にある土田刃物店三代目店主で、明治から昭和にかけて活躍した不世出の道具鍛冶、千代鶴是秀作品の研究家。父、一郎が遺した多くの手道具を所持し研究する傍ら、木工手道具全般の目立て、研ぎ、すげ込みを行う。 土田の著した千代鶴是秀のムックに感動した甲野がこの対談企画を持ち込んだ。 是秀は高名な刀鍛冶一族に生まれたが、明治9年の廃刀令以降、道具鍛冶となった。ノミ、鉋、切出、玄能、鋸と、道具それぞれに名工がおり、それらの道具を使う名人大工と名人鍛冶の丁々発止のやりとりは胸が躍る。 土田は是秀の死後に誕生しているため、人との面識はない。しかし父親が語ったエピソードと、是秀と交流のあった多

    『巧拙無二 近代職人の道徳と美意識』武術家と刃物研究家との”真剣”対談 - HONZ
  • 『反穀物の人類史──国家誕生のディープヒストリー』 農業の優越性という神話、国家の形成をめぐるパラドックス - HONZ

    『反穀物の人類史──国家誕生のディープヒストリー』 農業の優越性という神話、国家の形成をめぐるパラドックス いまからおよそ1万年前、人類は農業を発明した。農業が生まれると、人びとは必要な栄養を効率的に摂取できるようになり、移動性の狩猟採集生活から脱して、好適地に定住するようになった。そして、一部の集住地域では文明が興り、さらには、生産物の余剰を背景にして国家が形成された──。おそらくあなたもそんなストーリーを耳にし、学んだことがあるだろう。 しかし、かくも行き渡っているそのストーリーに対して、書は疑問符を突きつける。なるほど、初期の国家はいずれも農業を基盤とするものであった。だが、人類はなにも農業を手にしたから定住を始めたわけではない(後述)。また、メソポタミアで最初期の国家が誕生したのは、作物栽培と定住の開始から4000年以上も後のことである。それゆえ、「農業→定住→国家」と安直に結び

    『反穀物の人類史──国家誕生のディープヒストリー』 農業の優越性という神話、国家の形成をめぐるパラドックス - HONZ
  • 『無敗の男 中村喜四郎 全告白』竹のようなしなやかさを特徴とする組織づくり - HONZ

    「中村喜四郎」という名を聞いて何を思い浮かべるだろうか。もはやかすかな記憶…「なにか汚職で捕まった人じゃなかったかしら」。若い人たちなら思い出す記憶もなく「だれ?」というだろう。 その「キシロー」の名を最近なぜか、チラチラと見かけるのである。それも思いがけないところで。「え?このキシローさんは、あのキシローさん?」 中村喜四郎氏は1949年生まれ。大学卒業後に田中角栄事務所に入り秘書となり、27歳の時に旧衆院茨城3区で初当選。メキメキと頭角を表し、その後1987年に田中派が分裂すると経世会(竹下派)の結成に参加、翌年には若くして派閥の事務局長、さらには40歳の若さで初入閣し、戦後生まれ初の閣僚となった。その後は42歳で建設大臣。実力はもちろん、その男前な風貌も相まって名実ともに建設族のプリンスと謳われた。「小沢の次」「いずれは総理も夢ではない」とメディアからももてはやされた人物である。 が

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  • 『野生化するイノベーション 日本経済「失われた20年」を超える 』イノベーションに今、何が起きているのか - HONZ

    『野生化するイノベーション 日経済「失われた20年」を超える 』イノベーションに今、何が起きているのか イノベーションは、意味のあいまいなままに、いかにも新しい内容を伝えているかのように思わせる言葉として、多用されています。日企業の「有価証券報告書」を調べると、1,100社以上がイノベーションという言葉を用いています。この10年で4倍以上(2006〜2007年では、262社)に増え、短期間で浸透しています。 時事用語辞典では、プラスティック・ワード(人工的でプラスチックのようにさまざまに形と色を変えて現れ、意味ありげで内容は空疎だが時代に流通している言葉)の一つとして取り上げられ、会社においては部署名に採用され、違和感なく、むしろありふれたものとして、イノベーションという用語を利用しています。 この言葉に最初に光を当てたのは、20世紀初頭に活躍した経済学者ジョセフ・シュンペーターで、創

    『野生化するイノベーション 日本経済「失われた20年」を超える 』イノベーションに今、何が起きているのか - HONZ
  • 『精密への果てなき道:シリンダーからナノメートルEUVチップへ』「精密さ」の果てに到達した自然界の「不精密さ」の価値 - HONZ

    知る人ぞ知るサイエンス系ノンフィクションの名手、サイモン・ウィンチェスターの新作ということで、すぐ手にとった。 2004年に邦訳が出た『クラカトアの大噴火』は450ページを超える大部だったが、貪るように読んだ記憶がある。19世紀末スマトラ島近くのクラカトア火山が大爆発を起こし吹き飛んだ事件だ。巨大な津波が3万人を超える人々を飲み込んだ。衝撃波は地球を4周するほどの巨大さだった。結果的にこの大噴火はイスラム原理主義者の擡頭、植民地主義の崩壊、海底ケーブル網による世界同時報道、プレートテクトニクス論の確立、新たな芸術手法の誕生などの引き金となった。ウィンチェスターはサイエンスと歴史テクノロジーと人間の関係を描く名手なのだ。 書の原題は「精密工学はいかに現代社会を作り上げたか」だ。18世紀の産業革命以降、新たな良き機械を作り上げるため、たゆまぬ精密の向上が要求された。フォードやインテルなど、

    『精密への果てなき道:シリンダーからナノメートルEUVチップへ』「精密さ」の果てに到達した自然界の「不精密さ」の価値 - HONZ
  • 『「戦場のピアニスト」を救ったドイツ国防軍将校 ヴィルム・ホーゼンフェルトの生涯』憎悪と暴力の渦の中で人間愛を失わなかった男 - HONZ

    『「戦場のピアニスト」を救ったドイツ国防軍将校 ヴィルム・ホーゼンフェルトの生涯』憎悪と暴力の渦の中で人間愛を失わなかった男 ロマン・ポランスキー監督作品『戦場のピアニスト』をご覧になったことがあるだろうか。実話を基にして作られた映画だ。私にとっては人生の中で最も感動した映画のひとつである。 舞台はドイツ占領下のポーランド。首都ワルシャワのラジオ局でピアニストをしているウワディスワフ・シュピルマンが主人公。ユダヤ人である彼はドイツ占領下のポーランドで恐ろしい迫害を経験する。彼は絶滅収容所への輸送を免れたが、つらい逃亡と潜伏生活を余儀なくされる。そんな生活が極限に達した映画の終盤で、彼を助ける男が現れる。 それがドイツ国防軍将校のヴィルム・ホーゼンフェルト大尉だ。劇中の最も重要で感動的な場面だが、シュピルマンを助けたドイツ将校の情報はあまりにも少ない。名前がヴィルム・ホーゼンフェルトであるこ

    『「戦場のピアニスト」を救ったドイツ国防軍将校 ヴィルム・ホーゼンフェルトの生涯』憎悪と暴力の渦の中で人間愛を失わなかった男 - HONZ
  • 『経済学はどのように世界を歪めたのか』経済学はなぜリーマンショックを予見できなかったのか? - HONZ

    金融界の人が書く経済のは余りにも人間や社会の視点が欠けていて、しかも限定された場での理論的整合性を失わないために、専門分野以外のことは自分の守備範囲ではないとして、それ以上の対話を拒むような自己完結したものが多く、それだと現実の世界に照らし合わせて読むことはとてもできないが、書は秀逸だった。 「近代経済学の父」と呼ばれるアダム・スミスは、市場の調整機能を「(神の)見えざる手」という言葉で表した『国富論』で有名だが、書は、人間の共感力が道徳感情を生むメカニズムを解明した『道徳感情論』からスタートしており、しっかりと「人間」に焦点を当てている。その上で、主流派経済学の説明を軸に、行動経済学や神経経済学といった最新の動向までカバーしているので、新しい学びがとても多かった。 「社会的共通資」で有名な経済学者・宇沢弘文の『経済学は人びとを幸福にできるか』の中には、文化功労者に選ばれて宮中で昭

    『経済学はどのように世界を歪めたのか』経済学はなぜリーマンショックを予見できなかったのか? - HONZ
  • 『国境を越えたスクラム』なぜ彼らは日本代表として戦うのか - HONZ

    このところ泣いてばかりいる。 開幕戦のキックオフで泣き、釜石のスタンドに並んだ子どもたちの笑顔に泣き、アイルランド戦の勝利で泣いてしまった。まったくいい歳をした大人がどうしちゃったのかと自分でも思う。 でも、涙はラグビーによく似合う。 だいいち当の選手がよく泣く。彼らは勝っては仲間と抱き合って泣き、負けては相手と健闘を讃えあって泣く。いや、そもそも戦う前に国歌斉唱の時点で泣いている。気持ちが昂ぶるのを抑えられないのだ。鍛え上げられた筋肉の鎧をまとった男たちが人目もはばからず泣きじゃくる。それがラグビーだ。 故郷はラグビー熱の高い土地柄で、大分舞鶴高校というラグビー名門校がある。公立の進学校でありながら花園の常連だ。2学年上に今泉清という後に早稲田やサントリーでも活躍する花形プレイヤーがいたこともあって、この頃から熱心にラグビーを観るようになった。 大分舞鶴は、松任谷由実の『ノーサイド』のモ

    『国境を越えたスクラム』なぜ彼らは日本代表として戦うのか - HONZ
  • 『史上最恐の人喰い虎――436人を殺害したベンガルトラと伝説のハンター』悲しき猛獣は、なぜ生まれたか?  - HONZ

    『史上最恐の人喰い虎――436人を殺害したベンガルトラと伝説のハンター』悲しき猛獣は、なぜ生まれたか? 動物が人間を襲った事例でよく知られているのは、大正4(1915)年に北海道三毛別で起きたヒグマ襲撃事件だろう。これは8人が犠牲になった悲劇として語り継がれるが、それとほぼ同じ頃、ネパールとインドの国境地帯で人々を恐怖に陥れていた動物がいた。それが、チャンパーワットの人喰い虎――436人を殺害したとされる雌のベンガルトラである。 書はそのベンガルトラの足跡を追い、ジム・コーベットという伝説のハンターとの対決を描いた記録である。また、トラが人喰いへと追いやられていった背景を丹念に検証した、社会派ノンフィクションの顔も併せもっている。 だが、436人という数は、にわかには信じ難い。なぜこれほどの犠牲者を生んだのかという疑問はひとまず置いて、まず、トラという動物について少し学んでおこう。 トラ

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  • 『真面目にマリファナの話をしよう』空前のブームの最前線で、いま何が起きているのか - HONZ

    「ネットが生まれた時代に居合わせていたら、今ごろIT長者になっていたかもよ」。ある日酒場でそんな会話を耳にした。酔客の戯言ではあるが、草創期が可能性に満ちあふれているのは確かだ。そこには誰にでも成功できるチャンスがある。 あいにくインターネット革命はとうの昔に終わっているが、もしあのときの客に、いま米国を震源とした革命の波が世界に広がりつつあると教えてあげたら、いったいどんな反応を示しただろう。何しろそれは「マリファナ」をめぐる革命なのだ。 2014年にコロラド州が全米で初めて嗜好目的でのマリファナ使用を合法化したのをきっかけに、ワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州などが完全合法化へ舵を切った。その結果、いまマリファナ業界に莫大な資金が流れ込んでいる。シリコンバレーの超エリートやセレブが続々とマリファナ・ビジネスに参入しているのだ。マリファナ・ショップには行列ができ、デリバリー・サー

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  • 幸福になるためのワンコイン投資(ただし税別) 『逃げろ 生きろ 生きのびろ! 』 - HONZ

    たかのてるこ、『生きる』シリーズ第二作である。たかのてること言われてもピンとくる人は少ないだろう。しかし、『ガンジス河でバタフライ』の原作者といえば、一定以上の年齢の人にはイメージがわくかもしれない。長澤まさみ主演のテレビドラマになったノンフィクション旅行記である。 大阪の超名門・北野高校から日大芸術学部へ進学。「人にどう見られるかばかりを気にしてしまう、『小心者』の自分を変えたい一心で、ありったけの勇気を振り絞り、アジア一人旅を決行!」(たかのてるこオフィシャルサイトから)した時のエッセイ集が『ガンジス河でバタフライ』だ。 たかのてるこが長澤まさみに似てるかどうかについてはコメントを控えさせていただくが、なんでも日大の準ミスに選ばれたことがあるらしい。ホンマですか、という気がしないでもないが、これもさておく。 以来、たかのてるこのファンだったかというと全くそんなことはない。去年、インドの

    幸福になるためのワンコイン投資(ただし税別) 『逃げろ 生きろ 生きのびろ! 』 - HONZ
  • 『チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学』緩くつながり、ときに裏切り、香港で見たアングラ経済の姿 - HONZ

    『チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学』緩くつながり、ときに裏切り、香港で見たアングラ経済の姿 香港の中心街に立地するチョンキンマンション。安宿が密集するこの建物は、沢木耕太郎の『深夜特急』に登場したこともあり、今でも日からの旅行客を引きつけている。 2016年に香港の大学に客員教授として所属した著者は、ひとりのタンザニア人、カラマと知り合う。彼は「チョンキンマンションのボス」と名乗った。 「ボス」の日常は怪しさに満ちあふれていた。毎日、昼ぐらいに起き、夜な夜な仲間とたむろ。仕事は中古車ブローカー。インターネットを使って母国と香港の業者の取引を仲介している。大して働いている様子はないものの、月に数万ドル稼ぐこともある。 経済人類学者の著者が彼らの商慣行や起業家としての側面に関心を寄せるようになったのは自然の流れだった。書は国家の制度などに守られない彼らがいかに自

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  • 地図帳は、愛玩物であり夜空である 『地図帳の深読み』 - HONZ

    帝国書院のだ。そう、あの地図帳の出版社である。ほとんどの教科書は捨ててしまったが、歴史の資料集や星座の早見盤などと一緒に「地図帳」は手元に残しておいた、という方も多いのではないだろうか。書は、そんな方にピッタリのである。 捨てずにとっておいたのは、表向きには「ニュースの時に確認用に使えるから」かもしれない。しかし、実はそれ以上に「黙って眺めているだけで面白いから」という理由も、大きいのではないだろうか。要するに、地図帳は愛玩物なのである。 その悦びを満喫するために、このは生まれた。あの帝国書院と地図研究家・今尾恵介氏がタッグを組んだのだ。書を片手に、いま一度、家の奥に眠る地図帳を引っ張り出して眺めてみよう。屋さんで新しい地図帳を買ってもいい。新旧で見比べられたら最高だ。 まずは、書の構成を紹介しよう。第1章「地形に目をこらす」、第2章「境界は語る」、第3章「地名や国名の謎」、

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  • 『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』日本型雇用慣行は、なぜこれほどまでに変わらないのか - HONZ

    いったんでき上がった社会の仕組みは、社会のコンセンサスがなければ決して変わらない。 そして、その前提となるのは透明性と公開性であり、これがない改革は必ずつまずく。 こうした仮説のもと、雇用、教育、社会保障、地域社会、政治、さらには日人の「生き方」までを規定している「慣習の束」がどのようにでき上がってきたのかを、歴史的事実と豊富な参考文献に基づいて丹念に解き明かしているのが書である。 とくに今、日型雇用慣行(女性と外国人に対する閉鎖性、正規と非正規との格差、転職のしにくさ、高度人材獲得の困難さ、長時間労働と生産性の低さ、ワークライフバランスの悪さなど)に対する閉塞感が蔓延しており、働き方改革が叫ばれているにもかかわらず、なかなか社会は変われない。なぜなら、今の雇用慣行は経営の裁量を抑えるルールとして、労働者側が歴史的に達成してきたものだからである。 日では、職務の明確化や人事の透明化

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  • これが実話だなんて!『大英自然史博物館珍鳥標本盗難事件』 - HONZ

    ロンドンの王立学院に通う20歳の音大生が、あの大英自然史博物館から、死んだ鳥の羽を盗んだ――なぜ、前途有望な若者が300羽近い鳥の美しい羽根を? 世にも不可思議な盗難事件の顛末を追った犯罪ルポ。ページをめくる手が止まらない、思いがけない快作登場! 世界でも有数の音楽院にアメリカから入学したフルート奏者。裕福で、整った品のいい顔立ちの20歳の青年。その青年が、世界に冠たる大英自然史博物館の分館に、夜間に忍び込み、約300羽分の鳥の羽を盗んでスーツケースに詰め込み、誰に追われることもなく電車に乗って帰宅した。 これが事件の顛末だ。 ニューヨーク、マンハッタンから、10歳の頃、北方200キロの街に移り住んだエドウィン・リストは、家の中で勉強したりフルートを演奏したり、弟と遊んだりするのが好きだった。両親はアイビーリーグ大卒で、フリーランスで執筆業に携わり、子供たちに自宅教育(ホームスクーリング、

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  • 『暴力と不平等の人類史: 戦争・革命・崩壊・疫病』平等は破壊の後にやってくる - HONZ

    ものすごいだ。まずはページ数。索引と原注だけで141ページ。文582ページ。重い。 次は帯。「核戦争なき平等化はありえるか?」という文章が美しい縦書きで書かれている。不意をつかれてギョッとする。横書きには第二次世界大戦、毛沢東の「大躍進」、欧州のペストという千万人単位が死亡した事件の結果として起こった平等化、生活向上、賃金上昇などの例を上げている。さらにギョッとする。 あまりに分厚いので、とりあえず序章と第4章「国家総力戦」を試し読みしてみた。第4章は明治維新以来の日の不平等の激化と戦争による解消だ。浅学な評者としては概ね正確だとしか評価することはできないが、これだけでヘタな新書一冊分の情報量がある。 もちろんトマ・ピケティの総括にも触れており、その検証も行っている。トマ・ピケティの総括とはすなわち 「かなりの部分まで、20世紀の不平等を緩和したのは、経済的、政治的な衝撃を伴う戦争

    『暴力と不平等の人類史: 戦争・革命・崩壊・疫病』平等は破壊の後にやってくる - HONZ
  • 『韓国 内なる分断: 葛藤する政治、疲弊する国民』これを読まずに韓国政治を語ってはいけない - HONZ

    韓国の現代政治史」をコンパクトにまとめただと理解した。立場は中立にして冷静。これを読まずに韓国政治について語ってはいけないと思う。 連続する大統領の悲劇や反日など、このの中では小事に過ぎない。それほど韓国内の政治対立は歴史的にも地域的にも根が深く、制度的にも心理的にも激烈で、とてつもなく複雑かつ深刻なのだ。これほどまでとは思わなかった。 朝鮮戦争は朝鮮半島の内戦に冷戦中の大国が加担したのだが、このままでは将来的に韓国内で内戦が起こるのではないかと思うほどの状態のようにも見える。若者だけが希望かもしれない(いまでは日を含めてどの国もそうだ!) 最初はKindleで読んだのだが、印刷を再度購入した。もう一度、付箋を貼りながら読んでみることにした。揶揄するつもりは毛頭ないのだが、もはや三国志のような壮大な歴史ドラマを読んでいるような気がしてきたのだ。それほどまでに情報量が多い。 タイト

    『韓国 内なる分断: 葛藤する政治、疲弊する国民』これを読まずに韓国政治を語ってはいけない - HONZ
  • 『月下の犯罪』名門一族の秘められた罪をめぐる極私的ノンフィクション - HONZ

    「180人のユダヤ人を虐殺したのは、私の大叔母だったのだろうか…」 そんな帯の文句に惹かれて書を手に取った。 1945年3月24日の晩、オーストリア国境近くの村レヒニッツにあるバッチャーニ家の居城で、ナチとその軍属のためのパーティーが開かれていた。月が明るい晩だった。この時、駅には200人近いユダヤ人たちが立たされていた。彼らは対赤軍用の防護壁を築くためにハンガリーから連れてこられた強制労働者たちだった。 夜9時半、彼らはトラックに乗せられどこかへ運ばれた後、4人の突撃隊(SA)に引き渡された。SAはユダヤ人たちにショベルを渡すと、L字型の穴を掘るよう命じた。疲れ切ったユダヤ人たちが固い土を掘っている時、城の電話が鳴った。電話を受けた親衛隊上級曹長のフランツ・ポデツィンは「いまいましいブタどもめ」と吐き捨てると、部下にパーティーの参加者を連れてくるように命じた。そしてこう告げたのだ。「駅

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  • 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』 未来は彼らの手の中にある! - HONZ

    書はHONZでも複数の記事があがっている人気のだ(※)。それでも私が「追いレビュー」をすることにしたのは、それだけ強く心を揺さぶられたからだ。英国での著者親子の日常に触れ、熱い思いが体中の毛穴から噴き出しつづけた。めくるめく読書体験だった。 ※HONZ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』記事一覧 ・首藤淳哉のレビュー ・東えりかの著者インタビュー ・古幡瑞穂の「併せて読まれたこの一冊」 書はまず、中学校を選ぶ場面から始まる。英国では、公立でも小中学校を選べるそうだ。著者の息子さん(以下、「ぼく」)は、エリート中学校に進めるにもかかわらず、荒れた「元底辺中学校」に通う選択をする。この時点で、早くも私はワクワクした。 私にも、同じような経験がある。上位校への進学を先生に薦められたのにもかかわらず、一つ下の高校を選んだことがあったのだ。悩んだ挙句、最終的には学校を見学した時の直感

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