『侍の一日』(さむらいのいちにち)は、『七人の侍』の前に黒澤明が構想し、制作されなかった時代劇映画の仮題である。 1952年(昭和27年)、映画『生きる』を撮影中だった黒澤は、次回作として徹底したリアリズムを追求した、それまでに無い時代劇として「下級武士の平凡な一日」のストーリーを構想していた。 時代は徳川前期、主人公の侍は家禄百五十石の「使い番」と設定された。朝起きて、顔を洗い髭を剃り月代(さかやき)を剃り、奥女中が髷(まげ)を結い妻が着替えを手伝う。祖先の廟に礼拝し、供を連れて城へ上がる。 城では藩主が決定した命令事項を寺社奉行に伝えたり勘定奉行に伝えたりと、忙しく執務に追われるが、昼に詰め所で同じ家禄の馬廻り組の友人と弁当を広げてほっと息をつき、世間話をするのがお互いの楽しみであった。おかずの品定めをしながら季節の話題から釣りの話、川で鮎を追った幼少の思い出など話に花が咲く。主人公に