著者が今、最も旬な書き手であることを確信させられる一冊だ。世界を覆う社会的なテーマを生活者として語り、解決のヒントを暮らしの中に見出す。そのスタンスや主張は数年前からさほど変わらないはずだが、時代が追いついてきた印象もある。 ブレイディみかこ氏が本作で選んだテーマは「エンパシー」。これは他者の感情や経験などを理解する「能力」を指す。エンパシーは「意識的に他者の立場で想像する作業」すなわち「他者の靴を履く」試みでもあり、その点で、共鳴する相手やかわいそうに思う相手に向けて心の内側から湧いてくる「シンパシー」と異なる。そして、能力であるエンパシーは、訓練によって向上させることができる。 本書では、この抽象的な概念が身近なトピックを通じて語られ、骨太なテーマへと昇華されている。エンパシーはどのようにすれば向上させられるのか、優秀な女性指導者とエンパシーに関係はあるのか、サイコパスとエンパシーの関