自分の体になじむ言葉を忘れてしまった。いや、そんなもの初めからなかった。俺は誰かに読んでもらえるのが嬉しいから書いていた。あの文章よかったね、と言われたくて書いていた。 でも今は散歩するように書きたい。自分にしっくりくる言葉が欲しい。 散歩するように、というのはなかなか難しいのかもしれない。歩いていれば勝手に風景や音、匂い、風は流れていき、それにつられて思考や記憶が垂れていく。歩きさえすれば脳を活性させる材料はいくらでも環境が与えてくれるので、楽だ。歩くとなぜだか頭のなかにほどよい隙間できるので、思いや考えは歩行のリズムに揺られて勝手に転がる。ただただ転がし続けるのも楽しいし、転がることである程度丸まって形になるというのもよい。散歩したときに考えたことをさらさらっと書くのがいちばん気持ちいいのかもしれない。 しかし散歩のように書こうと思うと、とたんに難しくなる。通常、書くことは歩くことであ