アレクセイ(田中幸一) 話題の新人作家のデビュー作『空の境界』(奈須きのこ・講談社ノベルス)を読みはじめて、いきなり「文章」に引っ掛かってしまった。一家をなしたベテラン批評家である笠井潔から、上下巻にわたる長文の解説をもらうという「破格の配慮」をうけた「(読書界では)無名の新人作家」の作品だったから、ことさら評価が厳しくなった、というわけではない。むしろ奈須きのこは、笠井潔に見込まれ(巻き込まれた)人なのだろうから「彼には、何の罪咎もない」と私は考える。だから、奈須に「破格の配慮」に値する力量 があろうとなかろうと、彼に厳しくあたろうなどという気は、私には微塵もなかった。……なのに、いきなり文章に、ひっかかってしまった。 有り体にいえば、文章が下手なのである。いかにも同人作品らしく、文章が生硬で、読んでいてひどく抵抗を覚えてしまう。はたして、上下巻を読み通 せるか、と不安になった。