ブックマーク / econ101.jp (452)

  • ジョセフ・ヒース「反自由主義的リベラリズム」(2024年7月30日)

    近年の政治環境で最も奇妙な点の1つは、はっきりとリベラルの伝統に基づいた価値観を奉じながら、そうした価値観を促進するために、明らかに反自由主義的と言いたくなるような戦略をとる人が非常に多いことだ。ソーシャル・メディアからファシストを追放したがっている「反自由主義的な進歩派の若者(YIP:young, illiberal progressives)」が、現代の共和党員のほとんどを「文字通りの意味でのファシスト」と見なしているという話は今やおなじみである。 こうした若い活動家が、自身の表明している価値観と自身のとる政治手法との間にある明白な矛盾に無頓着なことに、関わった人なら誰でも気づくだろう。傷つけられやすい多様なマイノリティを守るという大義を掲げながら、自分たちに同意しない人をキャンセルしたり罰そうとしたりするイジメのような戦術を用いることには驚くほど躊躇がない。戦術的なレベルに絞って考え

    ジョセフ・ヒース「反自由主義的リベラリズム」(2024年7月30日)
  • ハンナ・リッチー「環境に良いとされている生活習慣(ビニール・プラスチックの代わりの紙袋、地産地消)は実際には環境に良くないことが多い」(2022年9月5日)

    効率的な環境保護活動に罪悪感を感じるのはなぜだろう? 私の作ったグラフは、環境保護についてのポスターに使われるかもしれないが、私自身は環境保護活動のポスターガールには絶対にならない。 私が事を作っているのを見れば、環境破壊しているようにしか見えないだろう。ほぼ電子レンジしか使わない。調理にはほとんど時間をかけない。調理に10分以上かかる事は〔環境保護の観点からは〕べる価値はない。私はほぼパッケージ化されたものをべている。アンゴラ産アボガド、メキシコ産バナナなどだ。地元で作られた材はほとんどない。地元産かどうかについて気にして、ラベルをチェックする必要もない。 これは「持続可能」と思われている行為と正反対だ。我々の脳裏にある「環境に優しい事」のイメージは、地元の市場からの仕入れ、有害な化学物質を使わない有機(オーガニック)農場での生産、プラスティック梱包よりも紙バッグでの持ち帰り

    ハンナ・リッチー「環境に良いとされている生活習慣(ビニール・プラスチックの代わりの紙袋、地産地消)は実際には環境に良くないことが多い」(2022年9月5日)
  • ノア・スミス「Twitter 入り浸りは精神衛生に有害」(2024年3月9日)

    ソーシャルメディア利用と精神衛生の悪化の相関を見出してる研究は山ほどある.でも,de Mello, Cheung, & Inzlicht によるこの研究こそが,ぼくにとっては真打ち登場って感じだ: 世間の論議では,よく,Twitter(現 X)がユーザーと社会に有害な影響を引き起こすと言われている.稿では,合衆国の Twitter ユーザーたちの代表的標から252人の参加者を得て調査を行うことで,この研究課題に取り組む.我々は,一日5回の質問を7日間にわたって継続した(6,218回の観察).調査結果から,Twitter 利用が幸福度の悪化および政治的二極化・怒り・帰属感覚の増加に関連していることが明らかになった.効果量は,社交的なやりとりが幸福度にもたらすものに近い.こうした影響は,人口統計上の特徴〔年齢や居住地域や就業状況など〕や性格特性を考慮しても一貫していた.データから推測される

    ノア・スミス「Twitter 入り浸りは精神衛生に有害」(2024年3月9日)
  • ブランコ・ミラノヴィッチ「公正な賃金システムはどんなものか?:資本主義、ジョン・ローマー、文化大革命」(2022年2月10日)

    1990年代、ジョン・ローマーは、“Equality of opportunity”『機会の平等』(1999)という著書を発表し、その後の不平等研究で盛んに研究されるようになった「機会の不平等」という分野の土台を作った。ローマーの重要な洞察は、個人の所得に影響する要因を3つに分解したことだ。その3つの要因とは、「環境」(ジェンダー、人種、親の所得、教育など、当該個人にはコントロールできない外的な要因)、努力によるもの、「気まぐれな運」(episodic luck)によるもの、である。「気まぐれな運」というのはローマーの用語で、ようするに私(ミラノヴィッチ)が良い職に就けたのは、その職に募集がかかっていたタイミングでたまたま応じられたからに過ぎない、ということだ。 ローマーはこのアプローチに導かれて、非常にラディカルな賃金システムを提案するようになった。ジェンダーといった外的な特徴で区切られ

  • ジョセフ・ヒース「アメリカの多文化主義は矛盾を抱え込んでいる」(2023年9月23日)

    Multinational culture isometric composition with people of different races and nationalities in folk costumes vector illustration しばらくアメリカに在住していたが、人種的正義を求める闘いで公理となっているものは、現実的な解決策となっておらず、逆に人種間の対立を世代をまたいで再生産してしまっていると思った。これをアメリカリベラルは理解できておらず、多くの逆効果(マイノリティ・グループの一部を共和党の掌中に追いやっている等)を生んでいる。このエントリは、そう確信するに至った分析を極めて簡潔にまとめるのを目的にしている。他の場所や、今後のエントリで、この立場を裏付ける様々な論拠を示す予定だが、今回はひとまず、この私の見解がどのようなものか知ってもらうために、分かりや

    ジョセフ・ヒース「アメリカの多文化主義は矛盾を抱え込んでいる」(2023年9月23日)
  • ジョセフ・ヒース「白人のマウント合戦:コフィ・ブライトの仮説を拡張する」(2023年8月25日)

    アメリカでは人種的正義を求める闘いに馳せ参じれば並外れた文化的名声を獲得できるため、世界中で模倣者を惹きつける傾向を生んでいる リーアム・コフィ・ブライトが『Journal of Political Philosophy(政治経済学ジャーナル)』に最近投稿した論文「白人のマウント合戦」での、アメリカの人種政治についての見解を大いに楽しませてもらった。まず最初に、この論文は査読の通過がほぼ不可能な形で執筆されているため、無事掲載されたこと自体に驚かされた。アカデミアにおける哲学論文は、査読者全ての怒りを鎮めることで、あたかも委員会によって書かれたように見えてしまう問題に悩まされている。さらに重要なのが、私見だが、アメリカ文化戦争に、ブライトのようなイデオロギー的に客観的なスタンスを示すことの極めての有用性である。 ハッキリ言っておくが、私はブライトの見解のほとんどに同意できない。しかし、彼

    ジョセフ・ヒース「白人のマウント合戦:コフィ・ブライトの仮説を拡張する」(2023年8月25日)
  • サイモン・レン=ルイス「財政再建に励んでも債務対GDP比が下がらない理由,そして,政治家たちが見当違いなタイミングで財政を引き締めがちな理由」(2023年4月18日)

    サイモン・レン=ルイス「財政再建に励んでも債務対GDP比が下がらない理由,そして,政治家たちが見当違いなタイミングで財政を引き締めがちな理由」(2023年4月18日) 「財政再建に取り組むべし」(公共支出削減や増税をすべし)という主張の理由として,しばしばこういうことが言われる.「債務対GDPの比を下げるのに必要だからだ」 ――だが,なるほど財政再建のためのさまざまな方策を打てば公共部門の債務は減少する見込みが大きいものの,同時に,GDP も減少させることになる見込みも大きい.だから,債務対GDPの比への影響は定かでない.IMF が公開したばかりの研究によれば,過去の証拠に照らして見ると,財政再建が債務対 GDP 比にもたらす影響は,平均で見て無視できる程度(i.e.実質ゼロ)なのがうかがえる. さらにその研究を詳しく見てみると,緊縮支持派にとっていっそう悪い研究結果が出ていることが見てと

    サイモン・レン=ルイス「財政再建に励んでも債務対GDP比が下がらない理由,そして,政治家たちが見当違いなタイミングで財政を引き締めがちな理由」(2023年4月18日)
  • ジャレド・ルービン「世界が豊かになった理由:前編」(2022年1月31日)

    How the World Became Rich (Part I) Posted on January 31, 2022 by Jared Rubin 世界は豊かになった。むろん、歴史的な基準でも、現代の基準でも、誰しもが豊かなわけではない。それでも、世界はかつてないほど豊かになった。世界人口のうち、悲惨なまでに貧困状態にある人の割合はかつてないほど小さくなっている。そして、現行世界における最悪レベルの貧困のほとんどが、一世紀以内に根絶されるだろうと信じられるだけの合理的根拠が存在している。 信じ難いかもしれない? 以下の2つの地図を見てほしい。一枚目は、(一人当たりGDPで)1900年のアメリカより豊かな現代の国を示したものだ。二枚目は、1800年イギリスとの比較である。国家レベルでは、世界の大部分が含まれる。1900年のアメリカと、1800年のイギリスは、当時それぞれ、世界で最も豊か

    ジャレド・ルービン「世界が豊かになった理由:前編」(2022年1月31日)
  • ジョセフ・ヒース「イデオロギー論の諸問題」(2001年10月1日)

    Vector continuous line drawing human heads with opposite thinking concept illustration 目次 1 イデオロギーと非合理性 2 集合行為問題 3 信頼 4 適応的選好 5 結論 現代の社会批評において「イデオロギー」概念が中心にあり続けているのは、カール・マルクスと青年ヘーゲル派のしつこく残り続けている遺産の1つである。「イデオロギー」概念は、個人が、自らを抑圧し搾取する制度の維持や再生産にしばしば自主的に加担するという、極めて特殊な現象を説明するために導入された。極端な場合、そうした個人は、自らにとって利益となるような制度変革を試みる他人の努力に、積極的に抵抗することさえある。よって明らかに、〔こうした状況への〕なんらかの説明――個人がいかにして自己利益の把握に系統的に失敗してしまうのか、あるいは自己利益

  • エスター・アレナス=アロヨ、他「オンラインメディアと思春期のメンタルヘルス危機」(2023年4月9日)

    高速インターネットへのアクセスにより、15 歳から 19 歳の少女の行動および精神の健康上の問題が大幅に増加したことが示唆されています。 加えて、中毒性のあるインターネットの使用により、ティーンエイジャーが健康的な活動に費やす時間が減っています。この調査結果は、思春期のメンタルヘルスに対するオンライン メディアの影響に対処するための政策介入を求めています。 (著者情報) Esther Arenas-Arroyo ウィーン経済・経営大学 助教授 Daniel Fernández Kranz IE大学 准教授 Natalia Nollenberger IE大学 助教授 過去10年間で、ティーンエイジャーの自殺念慮や自殺未遂の割合が、いくつかの国で大幅に上昇しています。このコラムでは、スペインの思春期のメンタルヘルスに対する高速インターネットの拡大の影響を調べました。その結果、高速インターネット

    エスター・アレナス=アロヨ、他「オンラインメディアと思春期のメンタルヘルス危機」(2023年4月9日)
  • タイラー・コーエン 「社会正義のために闘う『正義の味方』のどこがダメ?」(2019年3月22日)

    (人種差別に向き合えない「白人の脆さ」がテーマになっている)以下の論文 [1]訳注;論文の著者は、ロビン・ディアンジェロ(Robin DiAngelo)。 … Continue readingは、既にお読みになったでしょうか? http://libjournal.uncg.edu/ijcp/article/view/249 この論文はダメでしょうか? ダメなのだとしたら、どこがどうダメでしょうか? 経済学にも批判的人種理論にも同じくらい興味を持っていて、どちらも突っ込んで勉強しようと思っている大学新入生の知的好奇心を掻き立てるように説明するとしたら、この論文のどこがどうダメなのかをどんなふうにして語って聞かせるでしょうか? この問いは、 「社会正義を志向する学術研究全般のどこがどう望ましくないのか?」というもっと大きな問いにもつながってきます。貴殿がこの件についてどっちとも取れる曖昧な感じ

    タイラー・コーエン 「社会正義のために闘う『正義の味方』のどこがダメ?」(2019年3月22日)
  • タイラー・コーエン 「『ゼロサム思考』と米国における政治的な分断の淵源」(2022年12月26日)

    稿では、「ゼロサム思考」という文化的・心理的な属性の原因(起源)と帰結を探る。人生をゼロサムゲームと捉える「ゼロサム思考」によると、誰かが得をすると他の誰かが損をすると見なされる。稿では、 米国で暮らしているおよそ15,000人に対して聞き取り調査を行い、各人の「ゼロサム思考度」、政治観および政策観、家系に関する膨大な量のデータを収集した。ゼロサム思考度の高さは、政府の重要性についての見方だったり、再分配政策の有用性についてだったり、移民の効果についての見方だったり、政治的な立ち位置(左派、右派)だったりと強い相関があることが見出された。さらには、各人のゼロサム思考度の高低は、その人の両親や祖父母がどんな経験をしたか――親が祖父母よりも高い地位にいけたかどうか、両親や祖父母が経済面でどのような苦労を味わったか、米国に移民としてやってきた家系かどうか、両親や祖父母が移民と交わる機会が多か

    タイラー・コーエン 「『ゼロサム思考』と米国における政治的な分断の淵源」(2022年12月26日)
  • ブラッド・デロング 「マーティン・ウルフは経済学の理解が深い」(2010年9月27日)

    それとは対照的に、ジョン・コクラン(John Cochrane)はというと・・・。 コクランがポール・クルーグマン(Paul Krugman)に不満をぶつけている。その理由はというと、自分の発言をクルーグマンに「正確に」引用されたからだという。 クルーグマンは増える一方の敵に泥を投げつけていると指摘しているのは、シカゴ大学のジョン・コクラン。「議論するなかれ。中傷せよ。昔のインタビューから相手が恥ずかしがるような発言を見つけ出してきて引用せよ。・・・ってなわけだ。ポール殿の幸運を祈るばかりだ。ただし、貴殿がやっていることが経済学と関わりがあるかのようなフリだけはしないでもらいたい」。 「恥ずかしくなるような過去の発言」を引用されたのどうのというのが問題なんじゃない。コクランは、初歩レベルの間違いを何度も繰り返し犯して、論争のレベルを引き下げている。無知を晒してばかりいる。そこが問題なのだ。

    ブラッド・デロング 「マーティン・ウルフは経済学の理解が深い」(2010年9月27日)
  • ノア・スミス「実は日本は様変わりしてるよ」(2023年1月23日)

    By 稲ノ歯鯨 – Own work, CC BY-SA 4.0 2020年代は1990年代とはちがう BBC の東京特派員ルーパート・ウィングフィールド=ヘイズが書いた,日についてのエッセイが広く話題になってる〔日語版〕.ぼくも読んでみたけれど,ひどくいらいらしてしまった.このベテランジャーナリストは――2012年から日に暮らして働いたすえに――日の印象をまとめている.彼によれば,日は停滞して硬直した国で,「ここに来て10年経って,日のありようにもなじみ,次の点を受け入れるにいたった.日は,変化しそうにない.」 でも,日に暮らしたことがあって,2011年以降も年に1ヶ月間ほどここに来て過ごすのを繰り返してる人物として,そして,日経済についてかなりの分量を書いてきた人物として言わせてもらえば,日はまちがいなく様変わりしてる.すごく目につきやすくて重要なところがあれこれ

    ノア・スミス「実は日本は様変わりしてるよ」(2023年1月23日)
  • ジョセフ・ヒース 「上位1%のライフスタイル ~暖められた私設車道~」(2014年3月13日)

    「ラディカルな環境主義者」なんかじゃないと自任しているものの、環境汚染だとか浪費(無駄)だとかとの絡みで越えないように心掛けている境界線がいくつかある。「屋外を暖める」というのがそのうちの一つだ(あなたが屋外を暖めるのに手を出してしまっているようなら、一体全体どういう次第でその選択に至ったのかを考え直すべきだ)。例を挙げると、屋外用のヒーターを目にするたびに少々あきれてしまうのだ。隣人の女性がバックヤードデッキに屋外用のヒーターを設置しているのだが、その光景を目にするたびに、「気かね? セーターを着ればいいだけの話なんじゃないのかね?」と心の中で独りごちるのがお決まりになっている。 これだけじゃまだ足りないと言わんばかりに、トロントで暮らす上流階級の間で新たなライフスタイルが定着しつつある。その様を目にすると、気も狂わんばかりにイライラさせられてしまう。「自宅の私設車道を暖める」のが流行

    ジョセフ・ヒース 「上位1%のライフスタイル ~暖められた私設車道~」(2014年3月13日)
  • ノア・スミス「インターネットは断片化したがっている」(2022年12月17日)

    世の中のみんなを1つの部屋に放り込んでうまくいくわけがない 5年前,同僚の Dayv といっしょにビールを1杯やってたときのことだ.ぼくは Twitter をぐりぐりスクロールしながら,ドナルド・トランプの最新暴挙にみんなが憤慨してるのをしげしげと眺めて,こんなことを言った.「あのさ……15年前,インターネットは現実世界からの逃避先だったじゃん.いまは,現実世界の方がインターネットからの逃避先だよね.」 すると Dayv が,「それ,ツイートしなよ!」 ――で,そうした.この凡庸な所見が,ものすごくウケた.他のどのツイートよりも人気だ.ウェブのあちこちのコンテンツ工場で,これが無限に引用されつづけてる. あの他愛ない所見が,どうしてここまでたくさんの人たちに響いたんだろう? いま,インターネットから逃げ出す必要が感じられる理由は,わかりやすい.スマートフォンによって,インターネットが物理的

    ノア・スミス「インターネットは断片化したがっている」(2022年12月17日)
  • アダム・トゥーズ「アメリカの犯罪者を生み出すシステムは、多くのアメリカ人を雇用から締め出し、その人生を蝕んでいる」(2022年11月20日)

    時々、偶然目にする数字に足止めされてしまうことがある。先週はこの数字だった。 以下は、2018/19年のランド研究所によるものだ。 高等教育を受けていない26歳から35歳の(アメリカ人)男性のうち、60%が26歳までに逮捕されたことがあると回答した。対照的に、同年齢層の大卒男性は23%である。この数値には人種による差はほとんど見られない。 少しこの件を考えてみよう。 アメリカの若者の60%は、高等教育を受けていない。これはほぼ労働者階級と見なせるだろう。そして、この階層の人たちのほとんどは、26歳までに少なくとも一度は逮捕されたことがある。 驚くべき事実だが、この報告書の著者ジェイムズ・P・スミスは、逮捕率の割合が時代の経過と共に劇的に上昇していることを発見した。 26歳までに最低一度は逮捕されたアメリカ人の割合(出生年齢別区分) 出典:ランド研究所 2010年代の26~35歳のアメリカ

    アダム・トゥーズ「アメリカの犯罪者を生み出すシステムは、多くのアメリカ人を雇用から締め出し、その人生を蝕んでいる」(2022年11月20日)
  • アダム・トゥーズ「北京が直面するコロナ対策の悲劇的なジレンマ」(2022年12月2日)

    独裁者が恥をかいたという知らせは一般的には喜ばれるが、それが国家の悲劇や真にグローバルな問題をも招くとしたらどうだろうか。 10月に習近平が彼個人による中国の体制の完全支配を宣言したことは、中国歴史にとって不吉な転換となり、世界中の自由の友たちの間に悲哀をもたらすことになった。2020年以降、習近平の個人的権威を主に支えているのは、「人民至上、生命至上(人民とその生命を何よりも優先する)」を掲げる「コロナウイルスの蔓延を阻止するための全面的な人民戦争」、すなわちゼロコロナ(中:清零、英:Zero Covid)である。 習近平政権の最も誇らしい自慢は、米国が100万人以上の新型コロナウイルスによる死者を記録したのに対し、中国はわずか5000人余りであるという事実である。2020年5月15日から2022年2月15日まで、世界中で毎日何千人もの人々がコロナで亡くなっている中、中国土での死者は

    アダム・トゥーズ「北京が直面するコロナ対策の悲劇的なジレンマ」(2022年12月2日)
  • 「あらゆる社会問題は『住宅問題』に起因する」(2021年9月14日)

    欧米諸国における住宅不足は、多くの人が自分の家を持つことを妨げるだけでなく、格差、気候変動、生産性の低下、肥満、さらには出生率の低下さえも引き起こしている。 欧米諸国が現在直面する問題として、コロナ禍だけでなく、低成長、気候変動、健康被害、金融不安、少子化などが挙げられる。これら長期的なトレンドは、我々が社会に対して感じる諦めにも似た倦怠感の一因となっている。これらの問題は一見関連性が薄いように見えるが、全てを悪化させるある一つの大きな要因がある。それは「住宅不足」だ。つまり、人々の住みたい土地に建設される住宅が少なすぎるのだ。そして住宅不足の解消は、我々が直面する一見すると無関係な様々な問題の解決につながる。 住宅の高額化による “目に見える” 影響 職場、休日の過ごし方、友人や隣人、どのタイミングで何人の子供を持てるか、そして病気になるリスクまで、住む場所というのは人生のほぼ全てに影響

    「あらゆる社会問題は『住宅問題』に起因する」(2021年9月14日)
  • タイラー・コーエン 「バーナンキの学術面での功績を振り返る」(2005年10月24日)

    Federal Reserve History(https://www.federalreservehistory.org/people/ben-s-bernanke)より。 ●Tyler Cowen, “Ben Bernanke, economist”(Marginal Revolution, October 24, 2005)/【訳者による付記】バーナンキがFRBの議長に就任することが決まったのを受けて書かれた記事(2005年10月に書かれた記事)である点にご注意ください。 ベン・バーナンキの学術面での功績を私なりにまとめると、以下のようになる。 1. 不可逆的な投資理論:バーナンキ、ディキシット(Avinash Dixit)、ピンディック(Robert Pindyck)らが「投資の不可逆性」に関する理論を発展させるまで――1983年頃まで――は、企業による投資(設備投資)を可逆的であ

    タイラー・コーエン 「バーナンキの学術面での功績を振り返る」(2005年10月24日)