『全南島論』吉本隆明著、安藤礼二解説 作品社・5832円 吉本隆明が生前、発刊を心待ちにしていた大著『全南島論』がいよいよ発刊された。発行にかなり時間を要したのは、南島に関わる論考を網羅する困難さがあったからであろう。事実、発行予告が出た昨年からでも3点ほど追加されている。当然、予告されたページも530頁から589頁になり、定価も上がった。 本書の「まえがき」と「あとがき」は2005年に既に書かれていた。「まえがき」で吉本はまず、学問的な仕事としては柳田國男の『海上の道』、折口信夫の「日琉同族論」などを意識し、文学的には埴谷雄高、島尾敏雄への関心があったと記した。吉本が沖縄に目を向けたのは、日本列島の大和王権は弥生時代から始まっているが、しかしそれ以前に縄文の時代があり、痕跡は沖縄のほうに多く残っている、つまり弥生の大和王権の遺制以前のものが沖縄に見いだせるというところにあった。1970年