圧巻の『リア王』解釈 没後400年を迎えたシェイクスピア。その悲劇はいまだに解釈が尽きず、というより、より多くの新たな疑問を生み出している。その7作品を論じるのは、現代アメリカを代表する哲学者スタンリー・カヴェル。日本ではあまり知られていないが、ハーバード大学で独自の思索を展開し、映画論などでも活躍、熱烈なファンを持つ哲学者である。 四大悲劇を中心に折々に書かれたシェイクスピア論をまとめた本書は、無論哲学ならではの難解さに満ちている。だが、フロイトやニーチェやデカルトやウィトゲンシュタインらから深層へと切り込む迫力、言葉への繊細な感覚は、シェイクスピアと哲学双方への関心を 掻 ( か ) き立ててくれる。 圧巻は『リア王』開幕部の読解であろう。老王リアはなぜ姉娘たちの見え透いた 嘘 ( うそ ) に喜び、末娘の真心に怒りをぶつけたのか。従来は無思慮や 耄碌 ( もうろく ) 、作者の不首尾