お硬いウクライナ解説が多い中、しなやかな物言いで内容は示唆に富む。「ミサイルが上から降ってくる立場におかれた人たちの目線で」語ろうと考えたのは二人の歴史家だ。ロシアの侵攻を軍事や大国の対立だけで見るのは「そこで暮らす人びとの生活と歴史へのまなざしが弱い」と、人間性を原点に展開する。 二人はポーランド史と、ドイツを中心とした食と農の現代史の研究家だ。歴史の中で消された小国や生身の人間を紹介し、絵巻物のように地域を解説する。周縁や細部から本質に迫るのは、ロシアやNATOといった「大きな名詞」で歴史を語れば「力のゲームの議論に終始」するからだ。すべての紛争の解読に本来、欠かせない視点だろう。 一般にプーチンという特殊な人間が戦争を起こしたと思われているが、二人の見方は違う。プーチンのやり方はヨーロッパ史の主流であり、欧米の大国が行ってきた蛮行の延長だという。実際、今回のロシアの動きは米国が十九世