旅先で古(いにしえ)に思いを馳(は)せ、歴史の深層にふれる喜びは何ものにも代えがたい。本書はそんな期待に応える紀行エッセイ集である。経済史や経営史の知見を盛り込み、列島各地の鉱山跡地に「もうひとつの日本近代史」の姿を探る。人と土地とが交錯する行路の妙に、旅心が疼(うず)く。 経済の土台となった金、銀、銅をはじめ、工業化を支えた鉄鉱石や石炭は、いずれも地底から掘り出された。地上の繁栄を支えながら、忘れ去られた地下を探る先に著者が聴くのは、地霊の声だ。 紀行の色調は、山本作兵衛が地底を描いた『筑豊炭坑絵巻』のように明るい。美味(おい)しさの記憶は意外に薄いと著者はいうが、東京土産と思われがちな饅頭(まんじゅう)「ひよ子」は炭都・飯塚が発祥地で、直方(のおがた)の銘菓「成金饅頭」が石炭に絡むと示唆するなど、食文化に息づく地霊の気配にも目配りを欠かさない。筑豊三都のもう一角、田川の羊羹(ようかん)
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