僅かな凹凸に躓く (老いを意識し始めたのはいつごろからだろう?) そんな詮無いことを時折考える。 (せめてその時点で適切な対応をしていれば……) そう考えるのである。 思い至ったことがあった。 あれは作家になる前、翌年に還暦を迎えるという時点だった。 私は歩いている時、頻繁に躓(つまず)くようになったのである。 最初は車道と歩道の段差であったが、そのうちに歩道の点字ブロックの出っ張りにも躓くようになった。 「足が上がってないんだよ。意識して足を上げるようにしなくちゃ、治らないよ」 当時勤務していた店の店長に指摘された。 相談したわけではない。 店内の僅かな凹凸に始終躓く私に呆れて助言してくれたのだ。 (今さら無理だろう) と、私は考える。 その後61歳で大藪春彦新人賞を受賞した私は、その翌年、62歳で『鯖』と題した書下ろし長編小説でデビューした。 新人賞は原稿用紙換算80枚の短編で、一週間