レビュアー:新井 文月 イルカやハワイの海をモチーフに、バブル期を一世風靡した米画家クリスチャン・リース・ラッセン。 日本では1980年から90年代にかけて異常なほど人気が高まり、多くの版画・ジグゾーパズルなどの商品が消費されてきた。しかし、これまで新聞を含め美術マスコミは「コメントに値しない」と彼の作品が正面から論評されることはなかった。本書はラッセンが受容される心理と欲望、彼の正体についてニュートラルな立場から論評している極めて価値ある一冊となっている。 確かにラッセンアートは売れに売れた。作品に登場するイルカやクジラ、美しい海の魚達はドラマティックに太陽の光が差し込み、波は緑や紫にも彩られる。リアルに描かれる木々や山と浮かぶ星空も幻想的だ。購入者は、そのリゾートなイメージから「リッチで文化人」な優越感に浸ることもあるだろう。 美術界からなぜラッセンが忌み嫌われるのか、理由はさまざまだ
