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ブックマーク / medium.com/@H.I.P.S. (6)

  • 「ブレイキング・バッド」を読み解く

    6. ウォルター・ホワイトの変容 *以下の考察は当該ドラマを最後までご覧になった方に向けて書かれております。所謂「ネタバレ」があることをご承知下さい。 アリストテレスはフィクションを、主人公の特質によって分類した。王や英雄ら、常人=観客より「高い」人物が主人公であれば悲劇、「低い」人物であれば喜劇、美徳の主が無理からぬ過ちの結果破滅するのに「哀れみと恐れ」を感じるのが前者なら、悪徳の主が滑稽な過ちを犯し処罰されることが笑いを惹き起こすのが喜劇だ。尤も、これは解釈次第でどうにでもできるものでもあり、例えば「リチャード三世」を、玉座に就いた道化が全てを転倒しかき回す喜劇として上演することは可能だし、「ヴェニスの商人」を、分からず屋の父親にして強欲な金貸というまさしく道化でしかないシャイロックの悲劇として扱うのは通例になっている。 ウォルター・ホワイトはちっぽけな人間だ。社会にさえ見捨てられ廃棄

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    ikeike443
    ikeike443 2015/02/08
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    4. 無垢の虐殺 *以下の考察は当該ドラマを最後までご覧になった方に向けて書かれております。所謂「ネタバレ」があることをご承知下さい。 ウォルター・ホワイトが直接・間接を問わずその死に関与した犠牲者の数は200人にのぼる。そのうち167人は旅客機の衝突事故によるもの、1人は事故の責任を取っての自殺、更に1人は薬物摂取中の事故を故意に放置したことによるもの、16人が第三者への依頼によるものであり、人による殺害は15人である。ここには共犯者トッド・アルキストによる目撃者の少年ドリュー・シャープの殺害は含めていない。 全くのアマチュアの、六ヶ月ほどと推定される休止期間を挟んだ二年弱の活動の被害としては相当なものだ。が、その殆どについて人が気にしないのは、大半が広義の正当防衛か、抗争下の死と見ることが出来るからだ。ウォルター・ホワイトが幾らかでも悩むのはドリュー・シャープの死であり、一時なりと

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    ikeike443 2015/02/08
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    3. ホワイト家の水周り *以下の考察は当該ドラマを最後までご覧になった方に向けて書かれております。所謂「ネタバレ」があることをご承知下さい。 このドラマにおける色彩の象徴性については複数の解釈がある。 緑色については既に論じた。ウォルター以外の誰かが緑で装う時、その人物はウォルターの側にある。青がウォルターの作るブルー・メスの色だというのは論者の一致するところだ。仮設トイレに落ちたジェシーが汚物を溶解した消毒液で青く染まり、その匂いに耐えかねて移動ラボに使っているキャンピングカーに潜り込み、防毒マスクを被って眠るところが典型的だ。ピンクは無垢を示すとも言われる。マリーが好む紫色は女帝の色であり、贅沢と威厳への熱望と同時に、不安定な精神状態をも示しているが、黒 — — 偽装と欺瞞と隠蔽、更に言えば喪 — — に汚染されたピンクとも解釈できる。彼女は病的な万引きの常習犯だ。紫は同時に、余命を

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    ikeike443 2015/02/08
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    2. 糸を紡ぐグレートヒェン *以下の考察は当該ドラマを最後までご覧になった方に向けて書かれております。所謂「ネタバレ」があることをご承知下さい。 スカイラーと結婚する前、学生ベンチャー時代のウォルターには恋人がいた。エリオット・シュヴァルツとグレイマター社を始めた時の仲間だが、彼女の家族に引き会わされ、ということは結婚を前提とした交際へと踏み出そうとした時、突然ウォルターは彼女のもとを去り、グレイマターの株をエリオットに売り払って、ロス・アラモスに移った。彼女はエリオットと結婚し、現在ではグレイマター社の共同経営者である。名前を、グレッチェンと言う。Gretchen。マグダレーナの愛称から来た名前であり、由緒正しい古典的名作に倣ってドイツ語読みするならば、グレートヒェンだ。 グレッチェンの口から語られるこのエピソードは、家でさえ主導権を握り切れない温厚で小心そうな高校教師の、また別な性格

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    ikeike443 2015/02/08
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    ネグロ・アロヨ・レーン308*以下の考察は当該ドラマを最後までご覧になった方に向けて書かれております。所謂「ネタバレ」があることをご承知下さい。 ニュー・メキシコ州アルバカーキ、ネグロ・アロヨ・レーン308番地に一軒の家がある。まっすぐな通りがもう一の通りにT字型に行き当たったところだ。近隣は全て住宅であり、通行人は殆ど見当たらない。家の正面片側を二台収容可の車庫が占め、車庫の前には自動車が二台停まってる。戸口のある窪みを挟んで反対側には窓があり、その前にはかなり大きな樹木が植えられているが、根元には砂利が敷き詰められ、芝生はない。 家の裏には近隣の家に囲まれた裏庭があり、タイルが敷き詰められ、小振りだがかなり深いプールがある。ドラマが始まる時点では、プールの水は濁り、枯葉や塵が浮いている。同様に、この家は致命的な問題を抱えている — — タンク式温水器の内部は錆び、水位が下がった時、温

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    ikeike443 2015/02/08
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    5.エンパイア・ビジネスとモラルの問題 *以下の考察は当該ドラマを最後までご覧になった方に向けて書かれております。所謂「ネタバレ」があることをご承知下さい。 ビジネスとして捉えた場合、ウォルター・ホワイトの起業は、以下のような経過を辿る。 初めにイノベーションがある。従来のドラッグ業界では「貧乏人のドラッグ」と蔑称され、粗放な施設と技術で十分とされていたメタアンフェタミン、通称メスの製造に専門知識を持ち込んで、99.1%という抜きん出た純度を達成することに成功するのだ。ジェシーがアートだと絶賛し、一時助手を務めたゲイル・ベティカーが、ホイットマンの詩を引いて賞賛するほどのプロダクトは、メチルアミンを原料に使うことでトレードマークとなる青味を帯び、市場では従来品の四倍の価格で取引される。販売はジェシーが担当するのが、起業時の分担だった。ただし小分けにした袋詰めをジェシーが単独で夜通し売り歩い

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    ikeike443
    ikeike443 2015/02/07
    おもしろい評論
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