斎藤環、3冊目の文藝批評。1冊目の『文学の徴候』が作家論、2冊目の『文学の断層』が時評的な者だったのに対し、これは「表現論」だとあとがきに書いてありますが、読み終えた感想としては「表現論」と同時に「女性論」であったような気がします。 「関係性」を描くことこそ文学の特徴である、この切り口をもとに桐野夏生、鹿島田真希、マルグリッド・デュラス、金原ひとみ、桜庭一樹、谷崎潤一郎、川上美映子、中上健次の作品を俎上に載せて分析していくわけですが、一見してわかるように女性作家が多いです。 斎藤環は「やおい」などの分析を通して、男性の欲望が「所有」に向かうのに対して女性の欲望は「関係性」へ向かうと言いました。また、『母は娘の人生を支配する』では母親と娘の関係について1次のような知見を示しました。 母親の価値規範の影響は、父親のそれに比べると、ずっと直接的なものです。母親は娘にさまざまな形で「こうあってほし