先頃、初来日を果たしたファティ・アキン監督に、初めての東京の印象を伺ったところ、「『ロスト・イン・トランスレーション』や『バベル』を観て思い描いたのとは全く違う印象の街だ」との答えが返ってきた。アキン監督が宿泊していたのは、下町風情を残す銀座の京橋寄りのエリアにあるホテルだったから、東京という街に対して『ロスト・イン・トランスレーション』(03)でスカーレット・ヨハンセンが宿泊していたパークハイアット・ホテルや『バベル』(06)で役所広司と菊地凛子が抱擁する高層マンションといった、都会的に洗練されたイメージを持っていたのだとしたら、そう感じるのも無理もない。映画作家は、自らのフィルターを通してその土地を切り取り、そして、そこであってそこでないような、この世のどこにも存在しないかのような場所を幻視し、映像化するが、『ノルウェイの森』のトラン・アン・ユン監督は、こと"68年の日本"を幻視したと