一冊の書によって影響を受けたことは、なかったような気がする。 私と本とのかかわりは、おそらく次のようなものだろう。ごく幼いうちに「私」というものは確立され、ただ、その「私」が「私」のままで生きようとするとさまざまなシーンで衝突するので、無意識のうちに、自分と同じようなものの感じ方、考え方、行動をする人物が出てくる物語やノンフィクションを求めて読むようになった−−。 吉田健一の『ラフォルグ抄』(小澤書店)は、フランス象徴派の詩人ジュール・ラフォルグが、わずか二十七歳と四日の生涯の終わりまで書いていた『最後の詩』や『伝説的教訓劇』の翻訳をおさめた書である。これらの詩や散文のどのページにも満ちている、善意のニヒリズムというようなものに、私は自分を代弁してもらっているような気持ちになる。 たとえば、『最後の詩』の「日曜日」という詩の次のくだりが好きでたまらない。 要するに、私は、「貴方を愛してゐま