所用があって昔の女に手紙を書いた。送信ボタンをクリックして、送信の進展バーが進んでいくのを眺めながら、まったくもって思い出というものはうっとおしいものだと思う。とっくの昔に忘れたと思っていた観光地で聞いたカッコーの鳴き声、蒸気機関車の響き、手で触れた冷たい水、資料館の漱石の遺稿、客のいなかった旅館の床のきしみ、チェックアウトしたあと女が傘を忘れて自分が代わりに取りに戻ったことなど、突然思い出されてきて、まるで阿呆のようにこうして椅子に座っている。この世界に生きるあらゆる人間がそうであるように、誰しもが個人的な痛みや悲しみを抱えており、むろん私もそういった凡庸なる人々の一人でしかなく、そこから逃れられると思うのはただ滑稽である。椅子に座ったままぼんやりと本日用のエントリの空白の入力画面を見ながら考える。ブログの画面の反対側には、おそらく人の数だけの一瞬の孤独があり、薄く青い悲しみがあり、自意