著者は、国際政治や経済の情勢分析に定評のある評論家だが、古代史の分野でも現地調査を重視した研究を数多く発表している。『古事記』や『日本書紀』を教えない戦後教育を批判する著者は、「戦後の歴史学者らはアカデミズムの合理主義に支配され、あまりにも科学実証主義的な、乾いたニヒリズムで歴史を裁断してきた」という。合理主義や実証主義という、本来健全なものが、戦後日本においてはニヒリズムに冒されていることを鋭く抉(えぐ)り出している。 そういう戦後的な精神風土から離れるために、著者は前々から『古事記』の舞台をすべて歩きたいと考えていた。現場に立つと、古代史の謎の多くが解明されるからだ。しかし、海外取材の仕事が主になって、この願いは果たせないでいた。それが、新型コロナウイルス禍で海外旅行ができなくなったことで、念願の『古事記』の旅が実現することになった。本書は、その2年がかりの取材旅行から生まれた紀行であ