その6畳ほどの部屋を、彼は「穴倉」と呼ぶ。楽譜と大量の薬が置かれた机。小さなランプに灯された淡い光。マンションの暗い一室の白い壁に背中を付け、彼は座禅を組むようにいつも座り込んでいる。 サングラスの…その6畳ほどの部屋を、彼は「穴倉」と呼ぶ。楽譜と大量の薬が置かれた机。小さなランプに灯された淡い光。マンションの暗い一室の白い壁に背中を付け、彼は座禅を組むようにいつも座り込んでいる。 サングラスの奥の目が開かれているのか、閉じられているのかは分からない。しかし、まるで瞑想でもするように、彼が意識を集中させていることだけは分かる。近づき難い雰囲気が、濃密な空気の重さとなって伝わってくるからだ。 「そうやってね──」と彼は言う。 「音が降りてくるのを待つんです。僕の心の空の上には、いつもびっしりと岩のようなノイズの壁があるんです。その壁は降りて来ようとする音を遮っているのだけれど、岩に