「総力戦(国民が大量に動員される戦争)は所得格差を縮小させる」という説――「格差是正装置としての戦争」仮説――は、疑う余地のない自明の理なのだろうか? 「総力戦(国民が大量に動員される戦争)は所得格差を縮小させる」というのが自明の理のようになっている。マックス・ベロフ(Max Beloff)の『Wars and Welfare』(『戦争と福祉』)がこの説の起源なんじゃないかと思う。あるいは、ベヴァリッジ報告が起源かもしれない。あるいは、もっと遡(さかのぼ)れるかもしれない。ともあれ、その理屈を理解するのは難しくない。第一次世界大戦や第二次世界大戦のような大規模戦争では、何百万人もの国民に協力してもらう必要がある。普通の仕事を辞めて戦争に協力する彼らのために、誰かが武器に加えて衣食住を代わりに提供してやらねばならない。少なくとも、生きていられるギリギリの線を上回る生活を保障してやらねばならな